もっと近く。
 最低でも肉眼で確認出来るくらいまでは近づかないと彼女は逃げてしまう。
 だから、自分の気持ちを押し殺して待った。
 逢いたい衝動を抑えて待った。
 一歩、また一歩と彼女の気配が近づいてくるのを感じる。
 彼女は人の心を失っているため、カミーロよりも感覚が鈍い。
 だから、今はカミーロの間合いでコーサンの間合いではなかった。
 彼の方だけが彼女を感じとれていた。
 今だけは特別な時間。
 彼女が近づくのを待つ、鼓動を抑えるのに必死な時間。
 もうすぐ――
 もう少し、待てば彼女はここにやってくる。
 間違いなくここにやってくる。
 カミーロは確信した。
 そして、また、しばらく待つとようやく彼女の姿が見えてきた。
 カミーロは光の屈折を利用して見えない状態になっている。
 コーサンはまだ彼に気づかない。
 前に現れた偽物じゃない。
 本物のコーサンだ。
 人ではなくなってしまったが、微かに、恋人だったころの雰囲気を残す魔形――
 愛しくて愛しくてたまらない存在――
 だけど、倒さなくてはならない存在――
 二人を待つのは悲劇の結末しかないのだろうか?
 だが、二人の消滅は二人にとって不幸な事なのだろうか?
 生まれ変わってまた、一緒になろうという気持ちもある。
 生まれ変わって浄化されてまた、無垢な赤ん坊として再生しよう。
 二人で再生しよう。
 カミーロは切ない気持ちに包まれた。
 出会えば、殺し合わなくてはならない運命(さだめ)――
 だけど、二度と会えなくなるよりは良い。
 二人はまじわえるのだから――
 コーサンとの距離は500メートルを切った。