「あんっ、くすぐったいよぉ~、あ、そこは、だぁめ……」
 カップルがいちゃついている。
 それを旅で立ち寄ったフェリクスは見ていた。
「何、見てんだ、てめぇ、見せもんじゃねぇんだよ。あっち行け」
 視線に気づいたカップルの男がフェリクスに怒鳴る。
「あ、そんなつもりじゃ……」
 フェリクスは慌てて否定した。
 が、視線は服をはだけているカップルの女の方に向いていた。
 父、バティストの愛情は得られなかったが、万能師であったバティストの稼ぎは相当なもので、お坊ちゃん生活をしていた彼にとって、人の目を避けてとは言え、外でじゃれ合っているカップルを見たのも殆ど初めてだったので、ビックリして凝視してしまったのだ。
「あっち行けって」
「あ、うん……」
 カップルの男が手でシッシッとフェリクスを追っ払う。
 この男は弱そうな男だったら、金をせびるつもりだったが、フェリクスは気弱な性格に反して、厳つい顔をしているので、怒らせるとヤバいと思われたのか、追っ払うだけですませたようだ。
 一人旅などしたことのない彼は、何をどうやったら良いのか勝手が全くわからず、右往左往していた。
 すでに、ここに来る前に何度も騙されかけていたので、疑心暗鬼にもなっていた。
 それでも騙されずにいたのは父バティストの残した秘術の応用で、騙そうと思って近づいて来る人間の持つ違和感を彼は何となくだが、気づくことが出来た。
 そのため、この人間は嘘を言っているくらいであれば、彼は会話などから察知する事が出来た。