022 リタ・ウェーバーとの勝負

「リタ、あんたが負けたら、うちの面子は丸つぶれよ。何とか、勝ちなさい」
「オーケー、シャチョー。ミーは負けないね」
 なんとしても三連敗という屈辱は避けたい弥生はリタに檄を飛ばす。
 リタとの勝負は回避術勝負だ。
 攻撃してはいけない。
 攻撃を避けなくてはならないのだ。
 リタは回避術が不得意という訳ではない。
 ただ、手が出てしまうのだ。
 彼女は前職が女子プロボクサーだ。
 避けるのもお手のものなのだ。
 だが、避けている内に攻撃してしまう癖が抜けなかった。
 避けている内につい熱くなって殴ってしまうのだ。
 回避術なので、避け続けなくてはならない。
 攻撃してしまうと大きな減点になってしまうのだ。
 これを冒険に仮定すると、クエスト・ガイドなので、敵を倒さなくても別に良いのだ。
 敵に攻撃してしまうと、敵がクエスト・ガイドを自身の敵と認識してしまう。
 そうなると、敵との抗戦が始まってしまう。
 なので、そうならないために避けるだけの技術も必要とされていた。
 そのため、リタは、Bランク以上の実力がありながら、Cランクに甘んじることになっていたのだ。
 彼女がBランクに昇格するためには、この悪い癖を直さないと行けなかった。
 そのために組まれた勝負だった。
 そして、これは、卯月にも言えることだった。
 ボスキャラと戦う事が大好きな性格の彼女もまた、避けている内に攻撃を開始してしまう癖がありそうなタイプだった。
 つまり、似たもの同士の勝負でもある。

 勝負の回避術勝負は同時に同じ場所で行われる。
 まず、障害物が多数置いてある体育館に双方、隠れる。
 そこに、ドローンを三十機飛ばし、隠れている場所を探索させる。
 ドローンに見つかった時点で、自動攻撃システムと自動追尾ボックスが起動する。
 自動攻撃システムは建物に配置されていて、自動追尾ボックスは回転しながら、追尾してくる。
 自動攻撃システムと自動追尾ボックスからは特殊インクの入った弾が発射され、それに当たるとポイントがマイナスされるというものだ。
 自動攻撃システムは共通して、当たったら、一発につき、1点マイナスとなる。
 自動追尾ボックスは六面体の全ての面から弾が出て、出ている面によってマイナスポイントが-1から-6ポイントになる。
 発射された面によっては一挙に-6ポイントも削られることになる。
 自動攻撃システムは全200カ所、自動追尾ボックスは100機配備されている。
 体育館の大きさから考えて、いかに回避術が長けていようとこれらの猛攻撃を回避し続ける事は出来ない。
 要は持ち点1000点をいかに、長く保持し、0点以下にしないかという事が重要となった。
 つまり、最初にドローンに発見されてしまった方にはそれだけ早く、攻撃が始まるために圧倒的に不利となる。
 敵から何処まで隠れていられるかも勝敗を分ける事になりうる事だった。
 当然、インク攻撃に耐えられず、思わず、手を出してしまったら、大きな減点となる。
 本来ならば、その時点で、失格なのだが、二人とも手を出しそうなので、一回あたり、-30点という事にした。
「へい、ユー、ミーは負けないね」
「こ、こっちこそ」
 お互い闘志沸き立っていた。
「じゃあ、始めるから、隠れて。十分後に開始するわよ」
 弥生が開始を宣言した。
 卯月とリタはそれぞれ、隠れた。
 が、自信があるのか、リタは手前の方に隠れた。
 それでは、ドローンに早く見つかってしまう可能性が高い。
「ユーはこれまでの二戦で疲れているね。だから、これハンデね」
 ウインクするリタ。
 あくまでも正々堂々、叩き潰すという事なのだろう。
 卯月としても望む所だった。
 十分が経ち、ドローンが解き放たれた。
 リタはわざと表に出て行き、ジャブで、ドローン一機を破壊した。
「これ、ハンデ、その二ね。二回戦ってたから、ハンデ二つね」
 とまた、ウインクした。
 先に出たのと、ドローン破壊での-30点は栞戦と聡美戦での分という事なのだろう。
「あのバカ、ドローンの弁償、うちでしないといけないじゃない」
 弥生はため息をついた。
 バカ正直な所が卯月とそっくりな所がリタの欠点でもあった。
 スウェーでかわして行くリタ。
 だが、さすがにハンデをつけすぎた。
 集中砲火を浴び、みるみる点数を減らしていく。

 その時――
 バシュッ
「な、なんでヨ……」
 卯月がリタを庇って、集中砲火を受けた。
 みるみる卯月の点数も減っていく。
「ハンデ、貰いすぎたから、ちょっと返す」
 卯月もウインクして見せた。
 これで勝っても彼女は嬉しくないのだ。
「後悔するネ、きっと」
「しないよ。勝てば良いんだから」
「言うね」
 集中砲火を浴び、どんどん点数を減らしていく二人。
 勝ったのは、1点差で卯月だった。
 かろうじて、リタが0点になるまで1点を守り通した。
 勝敗を分けたのは正に運だった。
 卯月が避けた弾が彼女が死角となって、リタに当たってしまったというだけだった。
 どちらが勝って、どちらが負けてもおかしくない微妙な判定だった。
「ゴメンネ、シャチョー、負けちゃったヨ」
「良いわよ。それが、あんたの良いところだもんね。補習は受けてもらうわよ」
 素直に負けを認めるリタにねぎらいの言葉を弥生はかけた。
 負けこそはしたが、素晴らしい、人材を持っていると言えた。
「弥生姉……」
「しょうがないわね、今回は負けたわよ。でも、次はこんなに上手くいくとは思わないでね。いつかリベンジするから、その時はよろしく」
「う、うん……」
「じゃあ、とっとと、持っていってちょうだい。負けた以上、この三つはあんた達のもんだし、未練なんてないわよ。うちとしては大した傷手じゃないしね」
「へへっ、ありがとうね」
「お礼なんて良いわよ。これは勝負。敗者は勝者に代償を支払った。ただ、それだけの話よ」
「そうだね。じゃあ、遠慮なく……」
 卯月は勝利の笑みを浮かべた。