021 黒羽 聡美との勝負

 次の聡美との勝負はアスレチックレースだ。
 身体の大きな聡美は小回りが利かない。
 なので、それを鍛えるための勝負でもあった。
 これは勇者教育センターの巨大体育館で行われる。
 設定条件としては冒険者が傷を負ってしまって、そこから離脱しなくてはならない状況という事になっている。
 なので、卯月と聡美は50キロの重りを持ってでの勝負となる。
 もちろん、50キロの重りをつけて俊敏に動けるような事は無い。
 そのため、サポートアイテムの使用が認められる。
 スタートして100メートル重りを引きずって行ったところに、アイテムが10種類おいてある。
 走者はどのアイテムを使っても良いが、次のポイントまでそのアイテムを駆使して、進むことになる。
 次のポイントでは5種類、5つ、その次のポイントでは3種類、3つ、最後のポイントでは1種類2つのアイテムが用意されていて、そのどちらか片方は故障している。
 最後のポイントでは正確に動くのはどちらかという事を見極める観察眼も必要になるし、故障していた場合、応急措置をして、それを上手く利用する発想力も求められる。
 それぞれのポイントに置いてあるアイテムの説明はされていない。
 なので、あらかじめ頭の中に予備知識が必要とされる。
 知力、体力を必要とする勝負なのだ。
「双方、準備は良いわね、レディー……」
 パァン
 銃声と共に、50キロの重りを引きずって、最初のポイントに向かっていく卯月と聡美。
 小回りが利かなくても、その分、身体の大きさから、体力は卯月よりもある聡美の方が、やはり、先に最初のポイントにたどり着いた。
 どれを使うか悩んでいたが、その中の一つを選択し、次のポイントまで動き出した。
 彼女が選択したアイテムは、魔法薬グラビティーの元だ。
 これは重力操作の魔法に必要な薬で、振りかけると多少物の重さを軽くすることが出来る。
 彼女はこれに倍化の魔法を付与し、50キロの重りを5キロの重りに変えて運んだのだ。
 重さが十分の一になることで、彼女の運搬スピードは跳ね上がった。
 続く、卯月が選択したのは、梃子(てこ)の木片だ。
 これは梃子の原理を応用したアイテムで、不思議と軽く感じるという便利グッズだ。
 勉強はたくさんしてきた卯月だが、実戦で使った経験が無かったので、勉強で覚えたもの中でイメージしやすいものを選択した。
 そうこうしている内に、聡美は次のポイントにたどり着いた。
 魔法薬グラビティーの元はリセットされ、次のアイテムを選択する事になる。
 次に選択したのは機械獣プロペラだ。
 機械仕掛けのロボットの名称で、荷物運びに適している。
 だが、自動で運ぶので聡美自身との連携が取れない。
 勝手に運んでくれるので、聡美自身は楽だが、スピードが出ない。
 その隙に、このコースは障害物が少ないと判断した卯月が自転ソリに乗せて運んで、ほぼ、並んだ。
 次のポイントでは同時スタートで、卯月は簡易転送装置、聡美はスキルコピードールを選択する。
 スキルコピードールに聡美は情報を入力して、協力して、重りを運ぶ。
 一方、卯月は簡易転送装置を配置していく。
 一度に転送出来る距離と重さが限られていて、50キロの場合はせいぜい、20メートルがせいぜいだ。
 だが、簡易転送装置の重さは軽いので、20メートル毎に配置していけば、後は、簡易転送装置を作動して一気に次のポイントに進める。
 卯月はポイント間を二往復することになるが、簡易転送装置を持ってでの二往復は大した事はない。
 卯月は最後のポイントに先についた。
 が、彼女が手にしたのは故障した方のアイテムだった。
「やりぃ、勝った」
 聡美が叫ぶ。
 横から、正常に稼働している方のアイテム、浮遊座席に重りを乗せて運んで行く。
 が、勝負は卯月が勝った。
 彼女は故障していた浮遊座席を以前のものより性能をアップさせて、修理したのだ。
 そのため、ふわふわ浮いているので、大したスピードが出ない聡美の浮遊座席より、格段にスピードが出るようになり、抜き返したのだ。
「状況を見誤ったわね、聡美」
「……はい、社長、すみませんでした」
「非を認めるだけ、栞よりマシよ。よく頑張ったわね」
「次は負けません」
「……そう」
 聡美は悔し涙を流した。
 お互い、全力を出した、良い勝負だった。