019 Cランク クエスト・ガイド

「社長、深呼吸して」
 緊張でガッチガチの卯月をXくんはリラックスさせようとしていた。
 今日、彼は、だるまのマスクをしている。
 一体、何種類のマスクを持っているのだろう?
 彼は、正体を隠すマスクをおしゃれの一つとしているのかも知れない。
「そ、そんなこと言ったって、他のクエスト・ガイドの人との試合なんて始めてで──」
「【弥生クエストカンパニー】のクエスト・ガイドはやる気が少し低下していると聞いています。何が何でもアイテムが欲しいうちとはやる気の点でまるで違います。活路はそこにあると思いますよ」
「何が何でもって……」
「あのアイテムがあると無いとではうちの経営は全く変わって来ます。死活問題と言っても過言ではありません。緊張しているあなたにその事をあえて伝えたのは、緊迫感を持ってもらうためです。クエスト・ガイドとは緊張感の連続の職業でもあります。開拓冒険の時のあなたは緊張感が足りないように思いました。この機会に緊張するという事に慣れてくださいね」
「えぇ~」
「えーじゃありません。会社を背負っているんですから、もう少ししっかりしてください」
「う、うん。わかった」
「よろしい。じゃあ、ルールを確認します」
 Xくんは弥生から提示された今回の勝負のルールを書かれた紙を見せた。
 ルールとしてはアイテム1点につき、一人のクエスト・ガイドと勝負するというものだ。
 三つのアイテムが欲しい、卯月としては三人のクエスト・ガイドと勝負して全勝しなくてはならない。
 一敗でもすれば、Xくんを貸し出す事になってしまう。
 例え初戦で負けても、次の試合をすることも出来るが、二敗したら二日、三敗したら三日、Xくんを貸し出すという事になる。
 それは、冗談ではない。
 一敗もしたくないというのが卯月の本音だ。
 だが、相手はCランクとは言え、大手のクエスト・ガイドだ。
 経験は卯月よりずっと上なのだ。
 楽に勝てる相手ではない。
 初戦は花巻 栞(はなまき しおり)、
 二戦目は黒羽 聡美(くろばね さとみ)、
 三戦目はリタ・ウェーバー。
 三名とも遠方冒険回数十回を超える経験を積んでいる。
 まともな遠方冒険は一度もない卯月よりスキルは数段上という事も考えられる。
 認定試験では才能の高さを発揮した卯月だが、実戦に勝るスキルアップはない。
 才能はともかく、実力は相手の方が上と思った方が良いだろう。

 ただ、栞との勝負は組み手、聡美との勝負はアスレチックレース、リタとの勝負はスピードのあるモンスターを想定した回避術勝負。
 これはそれぞれのクエスト・ガイドがBランクに上がるために必要な、彼女達が苦手とする種目での勝負だと推測出来る。
 社長の弥生は苦手分野の克服をさせたいと思っているだろうからだ。
 そこに、卯月のつけいる隙間があると言える。
「社長、あれこれ考えても仕方ありません。勝つときは勝つ、負ける時は負けるんです。今回は死ぬような危険のあるものではありません。あなたの好きなガッと行って来て下さい」
「えぇ~、アドバイスって、それ?」
「僕も賭けの対象となっている以上、これ以上、助言するのはフェアではありません。信じてますよ。ガンバってきてください」
「そんな事言われたって……」
「貴女の欠点はあまり考えない事ですが、それは逆に長所でもあります」
「え?え?どういうこと?」
「ガンバってください」
「いや、そうじゃなくてどういう意味」
「余計なことを考えなければ何とかなるという事です。じゃ、僕はこれで」
「ちょちょちょ、ちょっと待って」
 その場を立ち去ろうとするXくんを呼び止めようとする卯月に対して、
「ちょっと、何やってんのよ、卯月、こっちは暇じゃないんだから、早くして」
 と弥生からの催促があった。
「わ、わかったってば」
 卯月は渋々、試合をする事にした。