016 弥生姉

「Xくん、これなんかどうかな?」
「ダメですよ、社長。見た目より機能性重視です。命を預かるんですから」
「そ、そうだよね。命の方が大事だもんね」
 卯月はXくんと買い出しに来ていた。
 通常の大手クエスト・ガイド・オフィスは専用の職人を抱えているのだが、卯月の会社の様な小さな会社は職人の数に対して、見合うだけのクエスト・ガイドがいないため、開拓冒険などで必要なアイテムは一般のアイテムショップなどで買い揃えていた。
 一般のアイテムショップになると職人の質も多少なりとも落ちてしまうので、どうしても、良いアイテムとそうでないアイテムを見分ける観察眼が必要になっていた。
 ろくでもないアイテムを手にしてしまうと冒険の時には命に関わるので、慎重なアイテム選びを必要としていた。
 アイテムショップの雰囲気としてはホームセンター等が近いだろう。
 ただし、アイテムには作った職人の顔も見える様に、売り場毎に、作った職人の顔写真が貼ってあった。
「お、あった、あった、社長、この職人は良い仕事をしますよ」
「へぇ~そーなんだ?」
 冒険家としてのキャリアがあるXくんは良い職人の顔はある程度、覚えている。
 それをあてに二人で買い出しに来ていたのだ。
「あら、卯月じゃない?どうしたの、こんな所で?」
 卯月は突然、声をかけられる。
 卯月の三番目の姉、九歴 弥生(くれき やよい)だった。
「弥生姉こそ、どうしてここに?」
「決まってるじゃない。ミスターグッズのアイテムを買いに来たのよ」
 ミスターグッズとはXくんもさがしていたアイテムを作った職人の事だ。
 彼は特定のクエスト・ガイド・オフィスと専属契約は結んでいない。
 一般の冒険者達にも自身の作ったアイテムを提供しようとアイテムショップでのみ、販売しているのだ。
「さすがですね、弥生さん、僕らも彼のアイテムを探しに来たんですよ」
 Xくんが弥生を褒める。
 弥生の時の審査官も彼が勤めているから顔見知りでもあった。
「むっ」
 卯月はちょっと不機嫌になる。
 彼女はあんまり、Xくんに褒められる事がない。
 たまたま会った弥生があっさりと褒められたのが面白くないのだ。
「X様もですかぁ♥、気が合いますね私達♥」
 鈍い卯月と違って、弥生はあっさりXくんの正体に気づいていた。
 気づいていた上で、正体を隠しているのには理由があると察し、Xくんという名前で通しているのだ。
「や、弥生姉は何を買ったの?」
 卯月がXくんと弥生の間に割って入る。
 仲良くしているのが面白くないのだ。
「何、あんた?ひょっとして、私がX様を引き抜くんじゃないかと思って警戒しているの?」
「ち、違うもんっ」
 違うと言いながらも顔は正直で、焦っているのが丸わかりだった。
「舐めないでね、私は無理矢理引き抜こうなんて無粋な真似はしないわよ。正式に申し込むわよ。その時は」
「な、なら、良いけど……」
「じゃあ、私、こっちだから――X様、また、お会いしましょう」
「あぁ、はい。そうですね」
「ではごきげんよう」
 そういうと、弥生は奥の方に消えて行った。
「どうしたんですか?お姉さんと会ったのに何だか不機嫌そうですけど」
「なんでもない」
「なら、良いんですけど」
 Xくんは首を傾げた。