09 溺れる者は藁をも掴む

「あぁ……私のバカ、何でもっと従業員を雇わなかったのかしら」
 卯月が頭を抱えていると、
「何か、お困りですか?」
 オオカミの覆面をかぶった男性が事務所を訪ねてきた。
「え?……い、いえ、そんな……何でもないです……」
 卯月は誤魔化そうとしたが、元々嘘が苦手なまっすぐ人間の彼女はすぐに顔に困ってますと表示されていた。
「お困りのようですね――僕で良かったらお供しましょうか?」
「え?え?お供って」
「開拓冒険に出られなくて困ってらしたんじゃないんですか?見たところ、ここはあなた一人だけの事務所の様ですし」
「なぁ……な、何でわかったんですか?……それに、怪しい……何ですかその覆面は?」
「あぁ、これですか、すみません――顔に大きな火傷を負ってまして、人に素顔を見られたくないんですよ」
「そ、そうでしたか、それは失礼しました。でも、お気持ちは嬉しいのですが、開拓冒険なので素人の方と行く訳には……」
「えぇ、ですから僕は素人じゃありません。試験の時、お会いしたじゃないですか。お忘れですか?」
「え?もしかして、もしかして、あの時の審査官の人?」
「えぇまぁ……」
「そそそ、そのせつは大変、お世話になりました。クエスト・ガイドになれたのも貴方のお陰みたいなものです。ありがとう、ありがとうございます」
 よっぽど嬉しかったのか、喜びを表現する様に両手を握ってぶんぶん腕を振る。
「あれは、正統な評価ですよ。それにしても相変わらず、表情が豊かですね」
「え?相変わらず?」
「あ、いえ、何でも……試験の時も表情がコロコロ、変わってらしたもので……つい……」
「そ、そうでしたっけ?試験の時の表情は、カチンコチンだったような気も……」
「そんな事はないですよ。この職業はスマイルが一番ですからね。良いことです」
「そうですかぁ~、ありがとうございます」
 卯月はさして、疑いもせず、喜んだ。
 目の前にいる男性が探し求めていた男性だと言うことにも気付かずに。
 そういう点が鈍い、卯月だった。
「どうされますか?僕で良いですか?」
「はい、渡りに船とはこのことです。よろしくお願いします。あの……審査官さんのお名前はなんとお呼びすれば?」
「……そうですね……僕の事は【Xくん】とでもお呼びください」
「え、Xくんですか?それはちょっと呼びにくいと言いますか」
「一匹オオカミ君でもかまいませんが……」
「え、Xくんでお願いします……」
 卯月はかなり怪しいとは思ったが、藁にもすがる思いで、Xくんを雇う事にした。
 素性は全くわからないが、試験の時の身のこなしから、ただ者では無いと思っていたので、その腕を信用して採用したのだ。
 何はともあれ、これで営業する事が出来るようになったのは喜ばしい事だった。