「おい、君、そこも自殺の名所なんだ。危ないからこっちに来なさい」
親切なお年寄りが崖に立っている男性に声をかける。
霧が立ちこめるそこは人を飛び込ませる怪しい魔力の様なものがあった。
お年寄りはそこを毎日の様に訪れ、自殺者を思いとどまらせている。
僅かではあるが、まだ、【ウツ】の影響に負けないで頑張っている人達もいた。
このお年寄りはその内の一人だった。
「………」
声をかけられた男性の反応は無い。
「早まるなよ、君、生きていれば必ず良いことに巡り会える。死んでしまってはそれもなくなってしまうぞ…」
お年寄りは男性を諭すように声をかけながらゆっくりと近づく。
「………」
やはり、男性に反応はない…。
だが、飛び降りるという気配は無い…
ゆっくりと話しかければきっと自殺を思いとどまってくれる…。
そう信じて、お年寄りは近づきながら声をかけ続けた。
そして、男性の近くまで来たとき…
「だ、誰じゃ…」
お年寄りはその男性が人間では無いことを知った。
真っ黒な肌をしていたからだ。
黒人のそれとは違う黒い肌…
長い灰色の髪を三つ編みにまとめたその姿は人間とは異なっていた。