男性がその前の知人から聞いた話はこうだった。

 【パンドラの口笛】と呼ばれるこの曲は4曲あり、拓人の気に入った【パンドラの抱擁】は三番目の曲だと言う。

 みんなこの【パンドラの抱擁】の虜になってこの曲を覚えたがるのだ。

 そして、繰り返し、前の人間に教わる【パンドラの囁き】を必死で吹き続ける。

 すると、ある時、頭の中に声が響くという。

 その声に【パンドラの告白】のメロディーを教わる事になる。

 そして、また、【パンドラの告白】を必死で吹き続けることになる。

 そうやって、やっと【パンドラの抱擁】が吹けるようになるという。

 【パンドラの抱擁】はまるで、美しい女性が側にいて、ずっと抱いていてくれるような心地よさを感じるという。

 だが、究極の感動は最後の【パンドラの口づけ】が吹けるようになった時に訪れるのだと言う。

 それが何であるかはわからないが、拓人はどうしても【パンドラの口笛】を覚えたくなった。

 それが、怪しいとは思わない。

 いや、思えなかった。

 拓人の思考は既に麻痺していた。

 拓人は男性の手ほどきを受けて【パンドラの囁き】を覚えて帰った。
                           
「お…あはははは…こ、これが【パンドラの口づけ】かぁ…これは良い…」

 その後、拓人に口笛を教えた男性の行方を知るものは誰もいない…誰も…。