「気になるのかい?」

 男性が返答してくれた。

 拓人が声をかけて口笛を吹くのを邪魔してしまったがどうやら、男性は気分を害してはいないようだった。

「あ、はい。つい…」
「…そうかい…」
「あの、何て曲なんですか?」
「この曲は【パンドラの抱擁】という曲だよ」

 聞いたこともない曲名だった。

「【パンドラの抱擁】ですか…良い曲ですねぇ。俺も吹いてみたいな、なんて…」
「なら吹けば良いよ…」
「あ、俺、口笛吹けないんですよ。不器用で…。何度か教えてもらったことはあるんですけど、上手く吹けなくて…」
「これは吹けるようになるよ」

 男性は優しい言葉をかけてくれた。

 そして、口笛を吹いて見せてくれたのだった。

「あれ?さっきの曲と違うような…?」

 拓人は首をかしげた。

 男性が吹いて見せた曲はさっき拓人が気に入った【パンドラの抱擁】とは異なるメロディーだったからだ。

「そう。実は、元々、私も口笛が吹けなくてね。知り合いから教えてもらったんだよ。この【パンドラの囁き】をね」

 拓人はちょっと残念がった。

 確かに【パンドラの囁き】も悪くは無いが、拓人が覚えたかったのは【パンドラの抱擁】であって、【パンドラの囁き】では無い。

「…あの、俺…」
「わかっているよ。君が吹きたいのは【パンドラの抱擁】だろ?」
「え…まぁ…」
「だけど、この【パンドラの抱擁】は頭の中の女性に恋い焦がれなくては吹けないんだよ。この曲に行き着くまでには二つのステップが必要なんだよ」
「…二つのステップ…ですか?」
「そう、それがまず、この【パンドラの囁き】であり、次のステップである【パンドラの告白】なんだよ」