「…ちょっと、良いかな?」
靖は大学生に声をかけられた。
大学生は、松村 俊征(まつむら としゆき)と名乗った。
俊征は靖同様、あまり、人と話すのが、得意ではなさそうな印象があった。
お互い口べた同士…。
だから、会話は弾まなかったが、俊征は【パンドラと名乗る女の子を見なかったかい?】と尋ねて来た。
パンドラ…、そう言われても知り合いにそんな女の子は居ない…
そもそも、女の子の知り合いなんて、年の離れた従姉妹がいるくらいで、後は、母親くらいなものだった。
「そんな人、知りません」
靖は俊征にそう答えた。
「そうか…、もし、怪しい女の子が居たら気をつけて…」
俊征はそう返した。
「知りませんってば。…失礼します」
靖はその場を立ち去った。
俊征は靖に死相が出ていると言っていた。
だから、怪しい宗教の勧誘だと思ったのだ。
(今日も可愛いなぁ…)
靖はポニーテールの女の子を今日ものぞき見ていた。
今日は二つ目の乗り換え駅まで一緒になっていた。
彼女と同じ電車を乗り継ぐのが気持ちよかった。
段々、彼女と一緒の時間が長くなる…。
そして、最後の電車に乗ろうとした時…
「やぁ…、君もこの電車?」
俊征が話しかけて来た。
白々しい…。
今まで、居なかったじゃないか…。
靖は不機嫌になる…。
ふと、ポニーテールの女の子を確認する。
居ない…。
本当なら靖の降りる駅の一つ手前の駅まで一緒だったはずなのに…
この人だ。
この人のせいで、彼女は居なくなったんだ。
靖は逆恨みをする。