「玲於奈ぁーっ!」
友達の大森 香月(おおもり かづき)が玲於奈に声をかける。
「………」
だけど、玲於奈は無反応。まるで聞こえていないかのようだ。
「玲於奈ってば」
「あ、香月じゃない、どうしたの?」
「どうしたのじゃないわよ、何回も声、かけたじゃない」
「あ、私の事だったの?気付かなかった」
「気付かなかったって、あんた、玲於奈なんて名前、そんなに無いわよ」
「そ、そうね、どうしちゃったんだろ、私」
「もー、しっかりしてよね、それより、あんたの忠犬はどうしたの?最近、一緒にいないじゃない?」
「忠犬って?」
「松村君のことよ」
「あ、松村君ね…そうね、どうしたんだろ…」
「どしたの?喧嘩でもした?」
「喧嘩?してないよ」
「いつも、彼の事【トシ】って呼んでるのに今日は呼ばないじゃん。何かあったの?」
「何も無いわよ…それより、パンドラ聞いたよ。良い歌詞ね」
香月はいつも、俊征の話を優先させる玲於奈が【それより】と言ったのが何となく引っかかったが、最近流行の流行歌、パンドラの話題に乗った。
パンドラ…誰が、歌い始めたか解らない謎の歌。
今ではかなりのアーティストがカバーして歌っていた。
曲を何度も聞いている内に女の子はまるで別人のように綺麗になっていくと評判だった。
その反面、今まで仲が良かった友達とも疎遠になっていくという事もあったが、美しくなるという事がそれを忘れさせていた。
女の子は綺麗になると言われていて、男の子は辛い現実から離れられるメロディーとして人気があった。
カバーしているアーティストの多くは謎の失踪や病死したりして、それが、いっそう神秘性を増していた。
「玲於奈ってさぁ、最近、髪、伸びたよね。でも、伸びるの早くない?」
香月は妙に髪が伸びるのが早いと思って、その疑問を玲於奈にぶつけてみた。
「そう?私は気にしてないよ」
「まぁ、そういう体質なのかもね、それより最近、趣味変わった?何か、服、派手になってきてない?」
「気のせいよ…私は普通」
「そうかなぁ、最近、妙に暗い感じがするし…」
「気のせいって言ってるでしょ!!」
「もう、怒鳴らないでよ!玲於奈、変よ、前はそんなんで怒らなかったじゃない」
「そうね、ご、ごめんなさい」
玲於奈は少しずつ変わってきていた。
彼女はどこかおかしい。
友人達もそうは思いつつも普通に玲於奈と付き合っていった。
「あ、あの、玲於奈…え、えーと、玲於奈って呼んでも良いかな」
俊征は精一杯の勇気を振り絞って玲於奈の名前を呼んだ。
自分が不甲斐ないばかりに玲於奈が変わってしまったと思い、引っ込み思案な自分を直すべく、努力を初めていた。
「…良いんじゃない…別に…」
玲於奈は連れない態度。
彼女は最近、パンドラファンクラブに入っていて、いろんな事をおろそかにしていた。
表情もどこか虚ろで、今までの様に俊征を見ていない…。
「あ、あの、自分、変わろうと思うんだ。れ、玲於奈に釣り合うように…なろうかと思って…」
「ふぅ…ん、ねぇ、あなた、私を抱きたい?」
「えっ、ちょ…」
足を絡めて来た。
突然の、玲於奈の誘惑に戸惑う俊征。
頭の中で警告音がした。
これは、彼女じゃない…。
以前の彼女は積極的ではあったが、最後の決断は俊征に任せていた。
断じて、これは彼女じゃない…。
そう、思った。
「だ、誰だ、あんた…」
【誰だ】という言葉を聞いて玲於奈の顔が引きつるのを感じた。
「だ、誰って、玲於奈でしょ…」
明らかに動揺していた。
「玲於奈じゃない…君は誰だ?彼女はこんな事しない」
「お、女は変わるものよ」
「彼女はそんな変わり方しない」
「な、何で、そんなこと解るのよ…」
「ずっと見てきたから…ずっと好きだったから解る。彼女を何処に隠した」
俊征は玲於奈の振りをしている者を睨んだ。