「川瀬君…」
「え…何?、何ですか?」
突然、浩紀に話しかけたのは一つ上の先輩、榮一郎(えいいちろう)だった。
霊感が強いことで有名な先輩だった。
「その…、何て言うか…君の周りで大勢、知り合いが亡くなったりしていないかい?」
もちろん、図星だった。
浩紀の周りでは、認識しているだけでも、18人がここ2ヶ月の間に亡くなっている。
それも、殆どが変死だ。
「…いえ、…別に…」
浩紀はウソをついた。
パンドラがいれば何もいらない…。
そう思っていたのだ。
余計な詮索をされたくない。
そう思っていた。
「大変、言いにくい事なんだけど、君にかなり強い、死相が出ているんだ。相当にヤバイ何かに取り憑かれている気がするんだ…。何か心当たりはないかい?」
「何もありません…。急いでいるんで、失礼します」
「………」
浩紀はそそくさとその場を後にした。
榮一郎先輩は黙って浩紀の後ろ姿を見ていた。
パンドラは怪しくなんかないんだ…。
そう思っていた。
だが、誰もパンドラだとは言っていない。
頭の奥ではパンドラが怪しいと思っていたが、恋心がそれを邪魔していた。
3ヶ月目には26人もの知り合いが亡くなり、その中には浩紀の叔母と父親も含まれていた。
その頃には浩紀に近づくと死ぬという噂が大学中に広まり、殆ど誰も話しかけてこなくなっていった。
それまで、苦しい生活をしながらとは言え、青春を謳歌していた頃の浩紀はもういない。どんどん周囲から孤立していった。
それは人生が色あせていくような感じだった。
そう、人生を奪われているような感じだった。
変な噂がつきまとい、バイトは全部、クビになった。
おもしろ半分で都市伝説として、浩紀の事をネットで流した男も人知れず死んでいた。
浩紀の周りからパンドラ以外の人がどんどんいなくなっていった。
いつしか、浩紀はパンドラの入った石棺を渡して死んだ祥吾と同じ顔をしていた。
明らかにわかる死相。
「みんながね、パンドラの事、悪く言うんだ…」
「…そう…。」
「そんな奴ら…こっちから願い下げだ…」
「そうね…」
「パンドラ…君さえいれば、それで良い…」
「そうだね…」
パンドラにすがりつく浩紀。
パンドラは不気味に笑っている。
だが、浩紀はそれを美しい笑顔と認識してしまっている。
…重症だった。