川瀬 浩紀(かわせ ひろき)は大して親しい訳ではなかったが、金持ちだと有名だった倉持 祥吾(くらもち しょうご)に呼び出されていた。
浩紀は苦学生。
北海道からはるばる上京して来たが、両親の仕送りだけでは、大学にも通えないので、日々をアルバイトに明け暮れる毎日だった。
対して祥吾は親からたくさんの小遣いをもらい毎日、遊び歩いているような男だった。
毎日、時計やらブレスレットやらをとっかえひっかえで身につけていて、隣にいる女の子も同じように会う度に違っていた。
それを鼻にかけていた。
正直、好きにはなれないタイプだった。
珠貴 羽住(たまき はずみ)…浩紀と一緒に上京して来た高校時代の彼女は、祥吾が親の借金をたてに無理矢理、あいつのフィアンセにさせられてしまった。
そして、彼女は祥吾との旅行中、亡くなったと聞いた。
葬式にも呼んでもらえず、彼女の死を知ったのはずいぶん後になってからだった。
本音を言えば、好きになれないどころか許せないタイプだった。
「何だよ…何か用かよ…」
祥吾の呼び出しに応じた浩紀は仏頂面で無愛想に用件を尋ねた。
「…彼女の…羽住が最期に持っていた形見なんだ…もらってくれないか…」
渡されたものは手のひらにおさまるような小さな物体だった。
「石棺…のミニチュア…か?」
そう思った。
縁起でもないと思ったが、ふと、祥吾の顔を見るとまるでもうすぐ死ぬかのように目の下に隈が出来て見るからに具合が悪そうだった。
その事からもふざけて渡しているようには見えなかった。
「…もらってくれないか?」
繰り返し祥吾は言った。
浩紀は祥吾の事は気に入らなかったがこれは大好きだった羽住の形見だと思い、もらうことにした。
「わかった…もらうよ…用件はそれだけか?」
もらうものはもらうがそれでも嫌いな男の前では笑顔になれない。
不機嫌な顔で答える。
「…あぁ…それだけだ…もう、会うこともないと思う…じゃあな…」
そう言い残し去っていった。
後で知ったのだが、祥吾の両親は事業に失敗、多額の借金を残し、首を吊ったとのことだった。
両親だけではなく親戚や友人も悉く亡くなっていたことも後で知った。
「羽住ぃ…今、行くよ…」
廃墟となったビルで祥吾は静かに瞳と人生に幕を下ろした。
