「どうしたの、なっちゃん?…危なかったね、植木鉢。当たらなくてよかったよ」

 心配した藍那が尚緒をのぞき見る。

 尚緒は血の気が引いていた。

「あっちゃん…、校門の外…何が見える?」
「何がって、今、パン屋さんの車が通りすぎたかな?後は人ん家しか見えないよ。他にはうちの生徒くらいしか…」
「背の高い…」
「工藤(くどう)先輩の事?それとも、敦(あつし)君の事?」
「…違う、怪しい人…」
「怪しい人?…って何処にもいないよ、そんな人…あっ、坂田(さかた)君のこと?彼、確かに怪しいねぇ」

 坂田とはこの学校の男子生徒でおちゃらけるのが好きな男子だった。

 変人と言われていたが、もちろん、尚緒の言う怪しい人とは違う…

「いい…わかった…」

 尚緒は諦めた。

 琉生や警察官同様に藍那にも見えないみたいだ…

 その日は授業に集中出来なかった。

 何をしていてもあの怪しい男と今朝の植木鉢が頭から離れない。

 そして、友加里の生首のイメージも抜けない…

 先生には三回も注意された。
 が、上の空だった。

「ほんとにどうしたのよ、なっちゃん」

 今日も琉生と一緒に下校する…。

 だけど、彼女に尚緒の悩みはわからない…。

 亡くなる前の友加里の気持ちが今になって、やっとわかった。

 彼女も、家族も、周りの友達も先生も誰もわかってくれていなかったのだ。

 身の危険を感じつつも誰もそれに気付かない…。
 そんな不安の中、死んでいったのだ…。
「何でもない…、気分悪いから、まっすぐ帰るね…」
「えー、マークでコロンビアバーガー食べようと思ったのに…」

 マークとはファーストフード店の名前。

 コロンビアバーガーはそこの新製品だった。

 寄り道したかったが元気の無い尚緒を見ていたら、一緒に行こうとは言えなかった。