小さな部屋のベッドの
掛け布団に仰向けに寝転がる。
顔を手で隠すように
覆い目をつむる。
視界がブラックアウトすると
闇に癒やされたが目を開けると
また残酷な現実がはじまる。
鏡なんて見なくても無残な
姿は簡単に予想できた。
私も闘病中、
自分の存在になんの
価値があるのかと
随分悩んだ。
優生学を知ったときには自分は
虫けらであることを本気で悟った。
ただダラダラと迷惑を
かけてるだけじゃないか。
トイレで便器を真っ赤に染めた後は
自傷行為を何度も繰り返した。
でもいつの頃からだったかな。
ある日から本に救われた。
ただ文字が並んでるだけなのに
頭をなでてもらっている感触に
誘われた。
あの質感と重さと匂い。
そしてめくるときの音。
友達はいなかったので本を
話し相手のようにして堂々と
ページをめくり、
憎悪と発狂を沈めていった。
入院するたびに本に
助けてもらった。
今でもそう。
本は貴方を差別しないし
恋人のように逃げてもいかない。
本の中にいつかの忘れ物の
欠片(かけら)があるかもしれない。
本は筆者のものではなく
世界に放たれたと同時に、
本は貴方の才能をさりげなく
映し出すミラー。
自分の内蔵疾患は自分ではみえない
ように自分の心も自分ではみえない。
ページをめくるたびに
鳴らなかった心の音色が
響きわたり、
その空間に品が漂う。
今でも
飛行機よりはるか遠くへ
運んでくれる気がするんだ。
ページをめくるたびに
私のページもめくってくれる。
本に没頭すると心の深い部位から
貴方にしか生み出せない熱情が
噴出し顔に滲み出す。
【本は読まれない】時代
といわれているが
地頭を身に着けたり、
行間を読む行為には
本のちからは
今も健在だと思う。
未来(あした)生まれくる
世代にさりげなく手渡す
文化だと私も感じている。
次の角を曲がると、まだ知らない
ことがあるという幸福感に
少しでも包まれたい。
この寂しい惑星(ほし)
の旅人には本という
「地図のない」世界が
生み出す
言葉の風道の余韻に
酔いしれてほしい。

