こちらのつづきです。



学校に向かってはいたが、頭の中はすでに教室ではなく、保健室を目指していた。



保健室は1階にある。

階段を上ることすらままならない今の私には、そのことがとてもありがたく感じた。



「先生、ごめん、今日も休ませて」


ノックと同時に保健室に入り、大テーブルの一番奥の席に倒れ込むように座る。


そこは保健室に入ってくる人からも、先生からも死角になっていて、誰にも気づかれず休むことができる私の定位置だった。


いつものように、そこに突っ伏して、痛みが引くのをただ待つ。

その方が、ベッドで横になるよりまだマシな気がした。



ほどなくして、養護教諭のS先生が教卓から立ち上がり、こちらに歩いてきた。



小柄なS先生は、上品なおしゃれマダムのような見た目とは裏腹に、性格は非常にさっぱりとしていて、話しているとこちらもつられてさっぱりしてしまうような人だった。


ケガをした生徒にも、熱が出た生徒にも、ただ横になりたいと言う生徒にも、はいはいどうぞと皆同じように接するS先生の前では、いわゆる問題児扱いされている生徒たちも無邪気に笑い、楽しそうに話していた。


斯く言う私も、先生に居心地の良さを感じている一人で、ろくに理由も言わないまま、毎日ここに来ている。


そんな私に対して、S先生は「ちゃんと学校に来なさい」だとか「早く教室に戻りなさい」と、一度も言ったことがない。


だからこそ、私は安心して休むことができた。



しかし、今日ばかりは何かが違ったのだろう。

珍しく、S先生が私に尋ねてきた。


「今日も具合悪いの?」


その聞き方が、あまりにもさっぱりとしていたので、


「毎日◯◯(下剤の名前)を飲んでいるんですけど、最近全然効かなくて量増やしたら、なんか気持ち悪くなっちゃうんですよね」


自分でもびっくりするくらい、今まで誰にも言ってなかったことをさらっと答えてしまったのだ。



つづく