(たの)しみて淫(いん)せず、哀(かな)しみて傷(やぶ)らず

                (第三 20)

『楽しそうであっても、度が過ぎておらず、哀し

そうであっても心をそこなうことはない』

    →適度に楽しめ。そして自分を大切に。

革命前夜のロシアの最下層者社会にうごめく人


とっては、檻はなくと貧困というどうにもなら

ない牢獄の中にいるようなもの。ある木賃宿の亭主

のもとに、蔑みを背負い、犯罪にまみれ、破産し、

愛する人を失った、救いようのない不幸な人々が

集まる。集まって、この世の憂さと不満と怨みと

悲しみを、さらけ出しあう。やがてまた犯罪が起

こり、悲劇が始まる。人の死もあれば、反目、

嫉妬、奸策、詐欺といった醜い仕儀がまかりと

おる。


しかし、鬱屈した空気の一方で、不思議な気楽さ

がただよい、時に恋心や情愛がかすめ通ること

もある。とまれ、歌と酒でその日の不幸を紛ら

せるしかない人々。そんなどん底の空間にあって、

巡礼者ルカの言葉に、作者ゴーリキーの思想を見る。

「人間は自分を尊敬しなくちゃだめだよ」

「どん底」 ゴーリキー 1902年

   (久井 )