未病ということを東洋医学では言う。
 奇妙な考え方だと言われるが、陰陽説に基づいた考え方なので、分かってしまえば、ああそう言う事なのかと理解できると思う。
 東洋医学では、陰陽2つに病気を分類する。自覚できる症状から始まる病気を陽の病気とし、自覚できない症状から始まる病気を陰の病気として分類する。たとえば、痛みや嘔吐や不快感は、陽の病気である。また例えば、脈を診て異常な脈が察知されたり(西洋医学なら心電図での異常な波形が観察されたり)、腹診をして腹に何か硬い部分があるのが感じられるが、本人は痛みや違和感がない場合、陰の病気とする。
 陽の病気は症状があるのだから、誰もがすぐに医者に行く。陰の病気は、本人に自覚症状がないので、医師や針灸師が察知して、「現状は、何もないように思っているでしょうが、しばらく経つと、このような症状が現れる」と説明する。「だから、症状のないうちに(軽いうちに)、治療しましょう」と提案する。
 これが未病とか未病治といわれることである。
 言われてみれば何の不思議もないことである。検査すると異常なデータが出るが、本人は自覚症状が無いので病気ではないと思っている状態を、未病と言う。
 「未病治」とは西洋医学で言う「予防医学」の事ではない。自覚症状の無い病気を、定期健診などで発見して治療することを、東洋医学では「未病治」と呼んでいるのである。未病の段階での発見や未病治を東洋医学で重視するのは、その段階では患者の自然治癒力がまだかなり有り、弱い治療や少ない治療で治癒に導くことができるためである。患者の負担も軽く、針灸師の負担も軽いので、良い。