伊藤宣広さんの『ケインズ 危機の時代の実践家』(岩波新書、2023)を読んでいる。この本は、ケインズの経済理論を解説した本ではなく、ジョン・メイナード・ケインズの伝記である。そのため、ケインズが第一次世界大戦の終結期における外交交渉を担当した際の、彼の主張した内容などが書かれている。

 第一次世界大戦で、ドイツに莫大な賠償を求めた結果、ドイツの経済が悪化して、ヒトラーというナショナリストの台頭を促進したという話は有名である。しかし、僕はなぜそのような巨額の賠償を求めたのかその理由を知らなかった。この本では、そのことが解説されていた。

 第一次世界大戦は、実はドイツが非常に有利に戦争を行っており、そのドイツの戦費を賄っていたのがアメリカであった。第一次世界大戦の前半では、ドイツが勝ちそうであったのである。そこで、フランスやベルギーやイギリスがドイツを抑えこもうとして、イギリスが反ドイツ諸国に経済援助(軍事費の援助)を行っていた。その資金をイギリスはアメリカから借款していた。

 このために、イギリスはアメリカに対する巨額の債務があり、フランスはイギリスに対する巨額の債務があり、ドイツはアメリカに対する巨額の債務があった。ということで、ヨーロッパ諸国は第一次世界大戦でかなりの額の債務を負っていた。これを敗戦国であるドイツから回収しようとしたことが、巨額な賠償金をドイツに課した理由であるそうである。

 戦争遂行のために負った負債を敗戦国に支払わせるということは、その前の普仏戦争の時に、ドイツがフランスに対して歴史上初めて行った行為であったそうである。ローマとカルタゴの戦争のような、相手国を滅ぼす目的で相手国の経済を徹底的に破壊することはあるが、戦争遂行のための借金を敗戦国に支払わせるということはそれまで行われてこなかった。敗戦国がその時点で所有する富を収奪することは行っても、負債を証券化して敗戦国にその支払い義務を負わせるという金融のテクニックは、19世紀末になって現れた考え方である。

 ケインズは、ドイツに対して巨額の賠償を求めることは間違っていると主張した事は有名であるが、それは、その負債はドイツが支払うべきものであるのかどうかという金融関係の法律論であり、どうも人道的な観点からの話ではないようである。歴史の本では、人道主義の立場からケインズは反対し、それに従わなかった戦勝国がヒトラーの出現を招いたということになっているが、それは誤認であり、それら各国の負債の支払い義務は誰にあるのか?金融市場を健全な状態に保つ(デフォルトの回避)にはどのようにしなければならないか?という問題についてケインズが正論を述べたということが事実であった。

 ともかく各国は第一次世界大戦終結時に巨額の負債があり、この支払いをどうするかということで頭を抱えていた。アメリカだけが債権国として、非常に有利な立場にあった。

 この教訓から、昨今のウクライナとロシアの紛争に関しては、日本にウクライナへ融資させ、そのお金をヨーロッパやアメリカが武器輸出のための代金として回収するという構造を作っている。ウクライナがその負債を日本に支払えないなら、日本が没落する(円安が急速に進む)だけで済むということである。

 ということで、日本の経済官僚は、馬鹿であるようだ。

 第一次世界大戦や第二次世界大戦では、負債が払えない場合、領土を割譲するということで負債を払う。ここまで日本はしないだろうと、甘く見られて、馬鹿を見ている。こうした経済学の常識や歴史の常識が日本人には無いようで、現在の日本の政治家と官僚を全員銃殺にしても良いのではないかと思う。