中国古典医学で、「八卦」という言葉が出てくるが、これはいわゆる八卦のことではない。「八卦」という言葉は、いわゆる「陰陽説」という意味である。
 「易に太極あり」という『周易』繋辞上伝の「易有太極 是生兩儀 兩儀生四象 四象生八卦」のことであるが、これは「易に太極あり、ここから両儀が生じ、両儀から四象が生じ、四象から八卦が生じる」とあるが、四象から陰陽説というものが生じるつまり、太極両儀四象というもので陰陽説が構成されるという意味である。
 昨日、修養斎の本を読んでいてようやく分かった。うちの流派には口伝が伝わっており「八卦は無い」という口伝である。
 中国の古典は、すごく分かり辛い。師匠について25年経ってようやく理解できるというものであった。

 それで四象から三才が生まれると書かれているが、甲乙丙丁と4つあると遁甲されて(甲が隠されて)、乙丙丁の3つしか現象化しないということで、記号的には四象であるが、現実は三才であるということである。

 まとめると、混沌→無極→太極→両儀→四象→三才となる。人間が概念を形成していく過程が、この陰陽説である。

 確かに、針灸はこのように概念を作っていく。

 五行について言えば、次の通りである。陰陽の2つの作用があるとする。これを現代の人間は、相生相剋関係と呼んでいる。さて、たとえば、ある記号Aがあるとする。生じる関係のものをB、生じられる関係のものをC、剋する関係のものをD、剋される関係のものをEとする。陰陽(相生相剋)の作用の関係では、要素数が最低でも5つ必要である。すべての要素がこの作用の関係を構成するには要素数がいくつ必要かと考えると、5つあれば良い(図示して証明できるが、文字だけだと数学の証明は示しにくいので、証明は割愛する)。数学的に2つの演算を持つ有限集合の最小のものは要素5の集合であるということである。
 これが五行説である。

 陰陽説も五行説も非常に数学的なものである。但し、高校までの数学では教えない、群論とか、有限集合上の算法や、グラフ理論といった、大学レベルでの数学であるから、一般の人には馴染みが薄いと思う。ニュートンが物理学を、実数とか関数といった数学(無限集合を前提とする数学)から作り上げていったように、中国古典医学も有限集合を前提とする数学を用いて、針灸の概念が理路整然と展開されるのである。