受胎告知 ・・・
大天使ガブリエルが
キリスト受胎を告げるために
聖母マリアのもとを訪れる。
ルカによる福音書に描かれている
そんな ドラマチックな瞬間を
ガラスの向こうに並ぶ ビーカー達の
一つ一つが 静かに 待っている。
僕らは、そんな現場に
一刻も早く駆け付けたくて
クロスロード博士が差し出した
防護服に身を包んだ。
孫ちゃんは
優しい給食センターのお姉さん に
そして 僕は
怪しいジャムおじさん へと
メタモルフォーゼを完了した。
そして
念入りな消毒を済ませ、
ガラスの扉を開き
聖なる 白い部屋に入った。
10個の 宇宙卵 が
受胎の瞬間 をを待ちながら
静かに 根気強く回り続けていた。
クロスロード博士の説明によれば、
全て 人の目と感覚で
液温や回転速度を管理しているらしい。
ビーカーの中の黄色味をおびた液体は
プラチナを溶かした王水を希釈したもので、
ビーカーの底で回り続ける
電磁石を動力とした
独立回転するスクリューが
渦状の対流を作り出す。
だだ、それだけの シンプルな装置だった。
物作りは
その工程がシンプルであれば、シンプルであるほど
それに関与する要因の影響が大きくなる。
僕は10年前から 蕎麦打ちを趣味としているが、
捏ねて、延ばして、切る という
シンプルな工程の 蕎麦打ちも
極めれば極めようとするほど、
僅かな要因が、
その出来不出来を左右することを痛感している。
材料の蕎麦粉の質 は言うに及ばず、
使う水の水質、温度、分量。
気温と湿度。
捏ねる速度、時間、力かげん、方向、
さらには、打ち手の心理、意識状態までもが
出来を左右する事は 肌で感じている。
ここの装置たちは
細心の注意と
膨大な経験値と
聖母の様な愛のなかで
制御されてるに 違いない。
果たして 目の前の
ビーカーの中の カオスの海は
どれだけたくさんの
目に見えない条件が整った時、
受胎の瞬間を迎えるのだろう?
薄いオレンジ色の液体の
永遠とも思える 対称性は
いつ 何をきっかけに
破れるのだろう?
潜象世界に イデアとして すでにある
正二十面体の 光の宮殿が
現象世界に 映し出され、具現化する
その臨界点は
時間軸上の どこに位置しているんだろう?
ビーカーの中で
静かに 旋回し続ける液体は
液面から 底に向けて
細長い漏斗(ろうと)状の 渦巻きを作っていた。
それはまるで
宝珠 を得んと 天へと駆け上がる
龍 がまとう つむじ風の様にも
また
天の浮き橋より 国産みを成さんと
イザナギと イザナミが 渾沌の海に突き立てた
天沼矛(あめのぬほこ) の様にも見えた。
ビーカーの中の 二重螺旋の束は
根気づよく 回り続けていた。
宇宙は
時空は
きっと
回転の中から 生まれたのだ。
回ること、回すこと
回転 とはなんて
不思議な魔術なんだろう。
時間さえ・・・
一日という時の流れは
地球の自転 という
回転運動の別称 であり
一年という時の流れは
地球の公転 という
周回運動の別称 に他ならない。
そう
時間さえもが
回転のなかから 紡ぎ出されているのだ。
回り、舞い続ける
破壊と創造の神 「シヴァ」
回転 旋回 反転こそが
時空を生み出し
虚無をも生み出すのだ
このアイノベツクスの
シンプルきわまりない
プラチナコロイド製造のノウハウは
日本はもちろん
イギリス、フランス、ドイツ、スイス、
トルコ、アメリカ、中国で
新製法特許を取得しているという。
しかし、そんな知的所有権を主張するまでもなく、
この製法は絶対に模倣出来ないだろう。
ファクターが多すぎるのだ。
人間に模倣出来る範囲は 高々知れている。
せいぜい、機械装置の忠実な再現と
濃度、温度、速度、頻度、強度、
といった物理的諸条件の整備と制御
あたりが関の山だう。
とてもではないが、
気候や風土、地磁気や水脈、
微生物環境や、土地のエネルギー、
さらには
関わる人々の精神性や霊性までもを
コントロールする事など絶対に不可能だ。
量子力学の観測問題や
形態形成場の問題も
関与しているかも知れない。
このことは、
陶芸の大家や 伝説の刀鍛冶 が
土や 砂鉄や 水を材料に
炎や 時や 空気 と協調し
偶然 をも味方に
さらには 神の助力 さえ得て
常人の及ばない
信じ難い程の創造を果たす事に似ている。
アイノベツクスのPVの中で
「 sai のプラチナコロイドは
このお城の中てなければ 産まれない」
と話していた女性の言葉は、
まさにこの真実を
端的に物語っている。
もう少し時間がかかりそうなので
いったん外に出ましょうか?
裏山をご案内しましょう。
そう言って
出口を案内する博士に続いて、
僕らはいったん外に出た。
防護服を脱ぎながら
博士は話してくれた。
プラチナコロイドが
たった一つだけ出来れば
あとは早いんです。
次々に出来始めて
やがて溶液は黒く変化していきます。
いつもだと
あと30分後くらいなんですが・・・
こともなげに話す 博士の言葉に
僕はあらためて
強い衝撃を受けていた。
いつも・・・ って!
そうか、
僕らにとっては
奇跡にさえ見える
受胎のドラマも
博士にとっては
繰り返す
日常の一コマなんだ!
ただ、博士は
そんな毎日を
ありきたり とか
ありふれた とか
たいくつな とは
決して表現しなかった。
新鮮で
面白い 毎日です!
と 無邪気に笑っていた。
僕は その笑顔の中に
宇宙の創造と終焉
そして
それを繰り返す
宇宙 の 輪廻を
次元の果てから静かに見守る
創造主の微笑み
を見た気がした。
第7章 「2021年宇宙の旅」へ続く
最後まで読んでくださって ありがとうございます💓



