愚王と魔法使い (仮) 12 | マロン日記番外編。

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「ところで。私たちは城に向かってるのよね?」
シレークスが確認したのも無理はない。
どう考えても、城は背中に見えている。
高い山の頂に、雲をまとった難攻不落の城。
神さまがおわします城。

城下街、といわれる街はいくつかある。
山の裾にある街が全てそう掲げているからだ。
そのうちの一つ、ノングラータで魔法使いは足を止めた。
規模はかなり大きい。
いつだったかの街も賑わっていたが、お膝元となると一層騒がしかった。
この街について三日、魔法使いは何をするでもなく街を歩き回っていた。

「そうだな」
出店に所狭しと並ぶ金属品を一つ一つ見ながら
魔法使いは答えた。

「あんちゃん、それお買い上げかい?」
髭をざんばらに伸ばした中年店主が声をかける。
「いいや。この値段は少し不相応だ」
「そっちの小刀はどうだい?そりゃ林檎印だよ」
ほう、といって小刀をその手につかむ。
柄には林檎の印。
小さい刃がきらっと光る。
「城から卸しているのか?」
「そりゃあ神さまのお力のこもった小刀さ」

「林檎が入ってればなんでもかんでも王家のもんてわけではないでしょうに」
横から呆れた声でお姫様。
店主がぎろりと睨みつける。

ひゅっ。
あ、という間もなく、魔法使いの右手のひらに赤い線がはしる。
とすっと地面に垂直に立った小刀は鞘への帰り道を忘れたようだ。

人差し指の付け根から、手首まで斜めに一本の線。
軽やかにざっくりと切れていた。

「この街の林檎印は、なんでもかんでも王家のものだな」
滴る血をどうするわけでもなく放置しながら
淡々と魔法使いは左手で小刀を拾う。

「あんちゃん、なにしたんだい!」
「店主、これは汚してしまったから買おう。
その代わりと言ってはなんだが、これを卸している商人を教えてくれないか?」


店主から情報を手に入れると、魔法使いは一度宿に戻った。
「不注意、にしては、」
右手をぎゅっと布で縛るのを横目にシレークスはそれ以上をやめた。
あまりにも切れすぎだろう。
落とした、程度ではそんなことにはならないのではないか。

「もちろん、落としたんじゃなくて切られたんだ」
しれっと言ってのける。

「林檎印とは相性が悪くてな」
その意味がよくわからない。
「あんた、前に私の剣使ったじゃない。投げただけだけど」
ヌービルムと対峙した時に、避雷針として。


「あれが本物だよ」
「は?」
「魔と王家の象徴が林檎印、というのが通説。
実際は逆だ。たまたま林檎の印を彫ったものが魔と王家の象徴になった」
「意味わかんないんだけど。この街のものは偽物ってこと?」
床に座っている魔法使いを、立って壁にもたれかかったままシレークスが見下ろす。
その黒髪が床に触れている。

「’君が見ている世界は君というフィルターを通している’」
魔法使いは唐突に突拍子もないことを言う。
シレークスはこの数週間でそれにだいぶ慣れていた。

「で?」
「そう言ったやつがいたな、というだけだ」
すっと立ち上がると魔法使いは机に並べた紙に書いてある情報の確認を始める。
この話の答えはもらえそうにもない。
シレークスはちょっとでかけてくるわね、と部屋を出た。


「そっこの金髪のおじょーうさん!」
小麦色の肌、緑の目、短い茶色の髪、がっしりとした体。
見た目二十代後半。どこかの傭兵だろうか。
シレークスは背後から声をかけられ、
一旦振り返って確認してから華麗にスルーをかました。
こういう手合いと関わりになって、何度か痛い目に合っている。
「ちょっとちょーっと!!お嬢さんてば!」
ついてくる。
陽気な声が憎らしい。
威嚇して追い払おうにも残念ながら剣はない。
最凶のフライパンもない。
すたすたと歩くが、すたすたとついてくる。

いい加減に、我慢が出来なくなった。

「何の用?生憎傭兵は間に合ってるし、
妙な輩に話しかけられるのが好きではないの」

一瞬、目を見開いてから男は声高々に笑った。

「そりゃ、とんだ勘違いだ!あはははははは。
お嬢さんに傭兵なんか要るわけがない!
なんたって、あの魔法使いがいるんだから!」


とりあえず、なにか誤解をしたらしい。
シレークスは一瞬そう判断した。
そして、
目の前で抱腹絶倒する男の横っ面を思い切りひっぱたいていた。


とりあえずどいつもこいつも、
わけのわからないことばかり言って、
こんなところで自分は何をやっているんだろうという
ここまでの鬱積がその手に詰まっていた。







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不定期になっていますが、ちょいちょい続けていきます。