女中 (現る)あの、織部さんがいらつしやいました。
夫人 (夫に笑ひかけ)どうしませう。
可児君 どうしませうぢやない。(女中に)お上りなさいつて……。(妻に)そこはいゝから……。早く座蒲団……。
夫人 (座蒲団を出し奥にはひる)
可児君 (机の上を片づけ、さも今まで仕事をしてゐたやうな顔つきで訪問客を待ち受ける)
織部 (女中に案内されて入つて来る)やあ、しばらく……。
可児君 やあ、端書着いた?
織部 あれを見て、今日ならきつとゐると思つてやつて来たんだが、忙しいんぢやない。
可児君 なに、今日は、どうせ駄目なんだ。しかし、君なんか、面会日を守つてくれなくつたつていゝよ。あの端書は、序に出したんだが、あれで、まあ、きつとゐる日だけはわかるからね。――さう思つて……。
織部 だからさ……。しかし、月一回は少かないか。
可児君 会ひたい人間には何時でも会へるんだからね。
