さらにDeepな屋久島の夜は続きます。


〈生命〉…その 2

ずいぶん待ったが亀は気配を感じて
産卵を止めてしまったらしい。
そこで、別の海岸に移動することになった。
トイレに行きたくなったmomoちゃんが、
「あの灯りのついた小屋で借りても
いいでしょうか?」と尋ねると、
スタッフは少し考えた後で
「いいでしょう」と
話をつけてくれた。

momoちゃんと私は、
二人で小屋に入っていった。
さっき道を尋ねた小屋だ。

さっきの人たちはみんないなくて、
髪をボサボサに伸ばした
40才くらいの男の人がひとり、
キッチンで何かを炒めていた。
momoちゃんを待って、
入り口に立っていると、
その人が話しかけてきた。

「上がんなさいよ。お茶でも入れましょう。
ここは国の建物でね、国のもんっていうことは、誰が使ってもいいってのがボクの考えですよ」
ためらいもなく上がり込みテーブルに着いた。
「ここは屋久ザルの研究所でね、
みんなサルの研究をしているんですよ。
おもしろい連中でね。
で、ボクは人間の研究をしているんですよ」

momoちゃんが、戻ってきた。
その人は鍋でお湯を沸かしながら、
違う話をはじめていた。
鼻唄を歌い、まるで踊ってでもいるように。

「あんたたち、変わっているって言われるでしょう」
すかさずmomoちゃんが、
「ハイ」と答える。
「そうでしょう。ここへ来て亀を見ようなんて考える人は変わってるよ」

ふと、入り口に気配を感じて振り返ると、
亀のスタッフさんが立っていた。
「済みましたか?みなさん待っていますよ」
はっと気づく。
一瞬忘れていた。
魔法にでもかかったように
momoちゃんと二人座りこんでいたのだ。
「お茶 もらってから行きます」
というと、スタッフは強引に言った。
「一緒に行った方がいいですよ」
気になりつつも、小屋を後にした。


海岸では亀が産卵の真っ最中だった。
亀をとりかこんで、
すでに何人もの人たちが座っていた。
momoちゃんが夢中でのぞき込む。
私も「へぇー」っとのぞき込む。

亀の顔がみたいと、
momoちゃんはとっくに場所をかえていた。
私も亀の回りを歩き、
momoちゃんの横に座った。
話に聞く亀の涙をボーッと見ていると、
スタッフの方が言った。
「触ってもいいですよ。甲羅に触っても固いのは解ってますから、ここ、首すじの所を触ってみてください」
言われるままに、亀の首すじに触れる。
軟らかな感触とともに、
ハアハアと亀の息づかいが伝わってくる。

「がんばれ‼」
その声に顔をあげると、亀に触れながら、
あのバイクの青年が夢中で応援していた。

がんばれー、私も心の中で叫んだ。
momoちゃんも、他の人たちも、
同じ気持ちで応援しているのが
はっきり解った。

           (次回に続く)


クローバークローバークローバークローバークローバー

ホロスコープ糸かけ花曼荼羅「hoshi」

納品させていただいた作品です。
おごそかな重みがあって、とても美しく
仕上がりました。