今日の昼休みは天気が悪く、本が読めそうにないので(昼休憩中は消灯)、先日読み終えた夏目漱石の「坑夫」から、坑道の賢者とでもいうべき「安さん」に焦点を当ててみたい。


 実のところ「安さん」は、私のフェイバリットキャラクターの一人になりつつある。

では他にもフェイバリットキャラがいるのかと尋ねられると、「白鯨」のスターバックなんかが思い浮かぶかもしれない。


こちらは前々回にも上げたもの。
 底意地の悪い先導者に置いてけぼりを喰らった「自分」は、暗い坑道で迷子になった先で、ある坑夫と出逢う。


 斯くいう「安さん」がその人である。

読者によれば、この常識ある坑夫の存在に違和感を覚えるようであるが、「自分」と私は、地獄に仏のような存在であったことには間違いない。


 「安さん」はこの坑ぐらで、坑夫歴6年の中堅ベテランの立ち位置にあるようだが、表社会で女性に関する「ある罪」らしきものを犯したようで、もうこの坑のある世界から抜けられることはないだろうと言う。


 一体どんな罪を犯したのだろう。

そこはわからずじまいで、わからなくともいい問題だ。


 「安さん」は訥々と自身のことを語りながら、「自分」へこんな感じのことを頻りに言うのだ。


「君のような若く可能性のある人が坑夫などするもんじゃない。表社会に帰りなさい。」と。


 更に言う。旅費は都合するから気にせず君の居るべき場所へ帰りなさいと。


 自暴自棄になり、死ぬことまで考えていた「自分」は「安さん」が居るからには生きようと、考えを改める。



 今時初対面の人を相手に、ここまで親身になってくれる人は居るだろうか。

「自分」が「安さん」の心意気に感銘を覚えるのは無理もないと思う。


 私も同じ心持ちになるし、心のパイオニア的な存在になるだろう。


 「坑夫」の中でも、最も良識と常識を持ち合わせ、一際異質で謎めいた存在が「安さん」である。


 なお安さんのもう一つ掴めない部分は、その容姿と発言から、日本人ではないのではとの疑念を持っている。


 現に「自分」に対し、話の流れ程度に「君は日本人だよな?」のような発言をしているのである。

ただそこも、あくまで「自分」の視点なのでわからずじまいである。