近頃は(かなり以前からとは思うが)、互いにスマホに入れておけば、相手の居る場所が分かるツールがあるらしい。


 確かに、子どもの安全確保や防犯などの利点は大きいのではないかと思うが、家族同士でもこんなツールを使っていると何だか息苦しい感じになってしまう。


 別に疚しい事がなくとも、今いる場所を調べられていると思うだけで居心地の良いものではない。


 そんな話を見知ってからすぐ、ジョージ・オーウェルの名作長編小説「1984年」の世界が頭に浮かんできた。



 「1984年」は監視社会に統治される人間の行く末を書いた、いわゆるディストピア小説であるが、そこで出てくるのが実態のない統治者「ビッグ・ブラザー」=「監視社会とその体制」である。


 一切の行動監視に加え、おまけにスパイからのハニートラップまで喰らわされた男の辿ったのは、完膚なきまでに叩きのめされ、身も心も歪んだ監視社会への絶対服従という末路であったが、私たちが持っているスマートフォンの位置情報確認ツールやSNSは考えようによったら、正に現代の「ビッグ・ブラザー」ではないかとも思えるのである。


 日本でいう昭和20年代の、まだ技術も今ほど先進的ではない時代にここまでの想像力を持って、未来の私たちの在り方を表したジョージ・オーウェルにあらためて偉大さを感じるものである。