私の中でユーモアが一際輝き馴染みやすい小説家として、井伏鱒二が一番に出てくるのであるが、それに負けずとも劣らない小島信夫の存在を忘れてはいけない。


 以前通読した短編集「アメリカン・スクール」所収の「汽車の中」というインディージョーンズよろしくのような無茶なスリルと滑稽さに満ちた作品を思い出し、久しぶりに本棚から引き出す。

以前読んだのはもう去年の9月であるが、少し前に読んだぐらい意識が瑞々しい。





 久しぶりに読んだのは「汽車の中」の次に所収された「燕京大学部隊」という戦争を彷彿とする一見堅そうな短篇作品であるが、そこは作者の妙であり、舞台は戦時中の中国といえど、ほとんど緊張感なく滑稽さのみで出来上がったような私小説的な作品である。

 ここで私小説と述べたのは、どことなく流されるままマイペースな主役の名前が、他でもない「小島」だからである。
確かに御本人、中国出征の経験がおありのようで、もしかするとその時の体験を文章にしたものかもしれない。

 片や戦時下という緊張状態にありながら、小島氏属する燕京大学部隊は、農作物で荒稼ぎや部隊通しての置屋通いなど自堕落を絵に書いたような生活を過ごしている。

 登場する小島氏を取り巻く人物が個性的な豪傑肌なのは、いつか読んだ西東三鬼の私小説「神戸・続神戸」をどことなく彷彿とさせ、滑稽なことこの上ない。

 中盤から置屋での出来事が主になるのだが、謂わば兄弟感や上下の立場による譲り合いなど、当時の軍属ならではの真面目感と不真面目感が入り混じって、私たちの知らない昔の時代背景であれど、普遍的な性への従順さと前述の自堕落さ加減に、作者のユーモアセンスに関心するばかりである。

 そしてこの小島氏、最期にまたブラックユーモアで読者を笑わせてくれるのである。

 今は自堕落繋がりで、野坂昭如の「マリリン・モンロー・ノー・リターン」へ読書をスイッチしている。