昭和二十一年に復刊された芥川龍之介の作品集「湖南の扇」に「僕は」という作品が収められている。
この「僕は」は、彼のフランス作家ジュール・ルナールの心のつぶやきのような作品であるのだが、ひと昔前のシュールなピン芸人のつぶやき芸のようでとても面白い。
「私だけ⁉」「〇〇です…○○です…」の滑り出しを連想させるような文章なのである。
例えば、屈辱を受けた際、すぐには不快にならないが、約一時間後に不快になってくる──
ロダンの作品ウゴリノ伯を見ると男色を想像してしまう──
等々、大笑いはしないまでも、笑いのツボを擽るような「こんなのは僕だけ⁉」といったユニークなつぶやきが3頁程の短さの中に凝縮されている。
この旧字と昔のチープな紙の手ざわり、そして丁度100頁目から始まるこのシュールなつぶやきを、何度でも読んでしまうのである。
ちなみに数行、以前の持ち主であろう方の線引が入っている。
昔の本はよく線引や書込みがある。
この方が却って本へ愛着があるように感じる。