梶井基次郎の「檸檬」は、今の時代でも復刊を繰り返し読み継がれている、言わずとしれた有名な短編小説である。


 「檸檬」は頁数がごく短いので、作者の他の短編作品と併録されるのが常で、今でも様々な装幀で簡単に入手することができる。


 私はそれでは少しつまらないと、いつもの偏執的コレクター気質がはたらき、古い装幀の「城のある町にて」を購入し、それに併録されている「檸檬」を通読した。



 本はおそらく元々付いていたカバーが無いのか、所謂裸本の状態であり、タイトルを背表紙で判別するのみである。

 頁をめくる際も、紙がチープなので綴じ代から破れが出ないように注意しないとならないが、それがいかにも「古本」という感じで却って良い。

 「檸檬」をはじめ「冬の日」など幾つかの短編を通読した程度であるが、作風はどちらかというと固くて取っつきにくいといった印象である。
とは言いながら、一人称視点で書かれた思弁的な文体は読むものの想像を大いに掻き立てるのである。

 「檸檬」においては、あの積み重ねた本と檸檬の情景自体が最早、悪戯心と想像の爆発であり、平積みを乱された丸善の店員さんは「誰の仕業だ⁉」と、後々首を傾げたに違いない。

 これもあくまで想像であるが。