ある日は眠くて読めず、ある日は数行読んでも頭に入らず、一日訳十ページの超スローペースでようやく読み終わったのが、ドイツの医師であり小説家ハンス・カロッサの「幼年時代」である。



 今私が最も師事しているYoutubeの文学解説者の方の紹介がなければ、おそらく知ることもなく、読む機会すら訪れたかどうかわからなかった。

 さて、このカロッサの自伝的小説の第一弾にあたる作品が「幼年時代」で、向こう見ずで好奇心旺盛な幼き日のカロッサと彼を取り巻く人々との様子が余すことなく美しく、時には少し切なく表現されている。

 物語は連続短編の形を取り、その中でしばしば登場する歳上の少女エヴァと、カロッサからするとジャイアンのような存在のライジンゲルとの関係と、時が経つに連れカロッサの心境が変化してゆく様は、読み手の心が洗われるようだ。
 
 驚くべきはこの物語、軍医だったカロッサが戦禍の砲弾の雨あられのなか書いた作品であることである。

 この美しくユーモアに溢れる自伝的小説は、あのNHK連続ドラマ「たけしくん、ハイ!」の素朴さに似ている。
きっとドラマになると面白い。
「カロッサくん、ハイ!」といったような。