このところ、一万円選書の記事を連投していたので、ニ年前の今頃より少し前の本との回想を綴ってみたいと思う。


 以前、アーヴィングの作品集「スケッチ・ブック」の風習部分にあたる小品について触れたことがあるが、元々この小品集を読んでみたいと思ったきっかけは、その小品のうち民間伝承にあたる「スリーピー・ホロウの伝説」が収録されていたからである。 



 「スリーピー・ホロウの伝説」といえば、ジョニー・デップ主演の映画「スリーピー・ホロウ」を若い時分に観たことを思い出す。
 スリーピー・ホロウに現れる、あの首無し騎士デュラハンの伝説である。

 この映画の原作が「スケッチ・ブック」の中の景色の一つと知ったのが、いつもの古本屋さんに並んでいたものを見飛ばして一年ぐらいだったかもしれない。
 このことを知って矢も楯もたまらずお店に走って購入したことを憶えている。

 その頃の私の頭の中では、「アーヴィング」といえば、「ジョン・アーヴィング」であり、「ワシントン・アーヴィング」ではなかったのだが、この出来事によって両者のイメージが逆転した。

 さてこの「スケッチ・ブック」は、昔の民間伝承や風習などについて綴った珠玉の小品集であるが、作者アーヴィングの目を通して語られる自然、口碑、伝承の数々は、文字どおり鮮やかな色彩のスケッチブックのように思えるのである。

 

 また作品中の伝承系の物語で群を抜く面白さと思うのが、不思議な酒で十八年間眠っていた男の話「リップ・ヴァン・ウィンクル」である。


 その他の作品も大変優れているのだが、この作品だけでも通読する価値があると言える。


 「スケッチ・ブック」は短編小説の良さを認識させてくれたものでもあり、今も私の中で上位を締める小説なのである。