子供の時分、「ザ・フライ」というSFホラー映画を観て恐れ慄いた憶えがあれば、私と同年代ぐらいかもしれない。


 映画は空間転移中、機械の中に入り込んだ蠅と融合してしまい、生きながら蠅の容姿に変わってゆく科学者に、生理的な気持ち悪さを覚えたものであったが、この映画には世にも悲しい原作小説が存在している。


 フランス語作家、ジョルジュ・ランジュランの中編「蠅」がそれであり、邦訳ではハヤカワ文庫の短篇集の冒頭に収められている。



 原作は映画と少々趣を異にしている。
いや、寧ろ映画の方が醜怪極まるホラー色の尾ひれを付けたのではないかと思う。

 科学者の実験失敗という筋は大体同じであるものの、異形の姿となって実験部屋に篭ってしまった科学者と、その妻の往復書簡の形式で物語が進み、妻に殺害を嘱託するまでの果のない悲しみが伝わるものとなっている。

 思い起こすと、短いながらもとても完成度の高い作品になっているので、いつか再読したいと思っている。 

  

別の装幀でも発刊されている。