英国の旧宮廷ハンプトン・コートと言えば、私の名刺代わりの小説「ボートの三人男」の1シーンを思い出す。

ちなみにこのシーンは、作中私が最も笑ったお気に入りのエピソードである。

 

ボートの三人男 (中公文庫)

 

 作中きってのムードメーカーで、我が朋輩ハリスが、地図を片手に意気揚々とハンプトン・コートの大庭園を散策しているところ、迷子がどんどん彼についてきて、終いにはハリス本人が大勢の迷子を連れたまま迷子になって、更に当てにしていた管理人も新人でまた迷子になって、ベテラン管理人の出勤を待って脱出するという、何とも間抜けな話なのである。



 ハリスを信用し、置いていかれまいとして彼の腕に縋りついていた赤子の母親は、雲行きが怪しくなると、ハリスをペテン師扱いし、その他の人たちは、そんな役立たずな地図は髪のカールにでも使ってろ!とカンカンに罵り始める様はとにかく笑わずに居られない。


髪のカールというのが、いかにもその時代を表していて趣がある。


 まるで反省のないハリスは、今度同じくボートの旅仲間のジョージをハンプトン・コートに連れていこうと企てるところで話が締まるのだが、読んでジョージの人となりを分かっている人は、またここで思わず吹き出してしまう。

 

 ちなみに、ジョージはハリスとどっこいどっこいの変人であることを申し上げておきたい。

ちょっと頭が固い朴念仁といったような。


だからハリスは一杯喰わせてやろうと言うのだ。