【北京=小林拓也】中国広東省深圳市の日本人学校に登校中の男児が18日に刃物で刺されて翌日死亡した事件を受け、中国の教育や宣伝が悲劇を招いたとして、転換を求める声が多く上がっています。これらの教育や官制メディアの宣伝は、「中華民族の偉大な復興」を唱える習近平指導部発足後に強化されましたが、中国の広範な人民が異論の声を上げた形です。

 

男児死亡直後から中国のSNS上には、「憎しみをあおる教育は極端な民族主義を育てた」「憎しみをあおる教育や宣伝を続ければ、文明世界から捨てられる」「教育の内容と結果を真剣に考えるべきだ」などの投稿が相次いでいます。

 

中国では1990年代から「愛国主義教育」が始まり、中国が西洋諸国より半植民地化され、日本の侵略を受けた被害の歴史が強調されました。2012年の習指導部発足後、西側諸国から受けた被害を強調する教育や宣伝がいっそう強まりました。

 

日本などによる侵略を受けた歴史的事実を次世代に伝えることは重要ですが、教育現場で日本の良い面を語った教員が処分されるなどの事件も起き、「被害意識を教えることに偏った教育になった」(中国の政治学者)と指摘されています。

 

その結果、SNSでの日本や米国などを攻撃する動画が出回りました。中には、「中国にある日本人学校はスパイ養成学校だ」などの明らかに間違った情報も数多くありました。一部の中国人はそれらの影響を受け、極端な民族主義が広まり、「社会の雰囲気にも影響を与え、反日感情が高まった」(ある中国の元大学教授)といいます。

 

理性的な中国人民から、憎しみをあおる教育や宣伝に対する批判が出ているのは、これらが深圳での事件が起きた原因のひとつだと多くの人が感じているということです。

 

中国のSNSに投稿されたある文書は、「歴史教育の中に、和解、包容、人類の共同の価値観などの内容を多く取り入れ、世界の公民としての意識を育てる必要がある」と提案。政府の宣伝に対しては、「客観的で理性的な立場をもって、極端な民族主義をあおることは避けるべきだ」と訴えました。

 

 

2024年9月23日付「しんぶん赤旗」より

 

 

1990年代といえば、日本嫌いで知られた江沢民体制の時代でした。この時代に教育を受けた世代が中国社会の中核を担っていることになります。彼らが「反日」をあおっているのでしょう。

 

かつての毛沢東体制下では、日本留学経験のある周恩来首相が「日本人民も日本軍国主義の被害者だ」と述べ、国交回復に反対する世論を抑えていました。忘れてはいけないのは、中国は日本に対するかつての侵略の被害に対する損害賠償権を放棄していることです。当時の中国の指導部に日本留学経験のある人物がいたのは本当に幸運なことでした。