私の「座右の書」とでも言うべき書籍です。残念なことに著者の高沢皓司氏は2022年後に亡くなっており、是非この続きを書いて欲しかった私としては、非常に残念な思いです。私がそう思うのも無理もありません。上製本として出版されたのは1990年代の半ばでしたから、当然ながら当時とは異なってきたことも多々あります。小泉元首相の訪朝も、この書籍が出版された後でした。

 

また私の知る限り、横田めぐみさんの拉致について、初めて取り上げたのはこの書だったと記憶しています。まだ拉致問題がマスメディアで大きく取り上げられる前であり、日本政府も本腰を上げて取り組む前でした。

 

1970年3月31日に赤軍派メンバーによる日航の「よど号」ハイジャック事件により、旅客機をハイジャックして、チョソンのピョンヤンに乗り込み、数日後にチョソン労働党の招待所で生活することになります。彼らは招待所でキム・イルソンの唱える「チュチェ思想」の学習に取り組み、次第に赤軍派の「世界革命論」「過渡期世界論」を脱却して「チュチェ思想」に転向していく様が書かれています。この当たりは著者が旧知の「よど号」リーダーの田宮高麿氏の単独インタビューから想像して書かれています。

 

やがて完全に「チュチェ思想」に転向し、世界中どこでも「首領様=キム・イルソン」に忠誠を誓う人格になったとみられた時、海外で活動するようになります。また、20代後半になった彼らのために、チョソン労働党は日本国内で女性をスカウトして、ピョンヤンにつれてきて、彼らと結婚させることができました。生まれた子どもたちを通して、世代を越えた「チュチェの戦士」となるべく教育されることになります。

 

また、結婚した妻たちも海外に出て、日本人旅行者を騙(だま)して、またマドリードやロンドンで日本人男女を「スカウト」して、ピョンヤンに連れていくことに「成功」します。

 

そしてこの著のハイライトとでも言うべき事柄は、赤軍派メンバーの中で行方不明になった岡本武と吉田金太郎の消息について述べていることです。岡本武は「チュチェ思想」の解釈で、他の赤軍派メンバーとの違いが鮮明化して、再教育されている時、チョソンから海を越えて脱出しようとして失敗したこと。また唯一の労働者だった吉田金太郎は1970年代の半ばで行方不明になったこと。それはおそらくチュチェ思想を受け入れなかったために粛清されたであろうと述べています。

 

一気に読むことが可能な読み応えのある書です。