「蚊取り線香、消えてるぅ。新しいのつけて!」
の声に、若い劇団員が、蚊取り線香を箱からだした。
が、いっこうに火をつけた気配がしない。

 ふと見ると、彼は、蚊取り線香のぐるぐると格闘していた。二本一組の巻きがはずせず、渦巻き蚊取り線香は、知恵の輪と化していた。
 みんなの注目の中、そのプレッシャーに耐え切れずポキポキ…!
「あ!」みんな、無残にも分割され、破片となってしまった渦巻き蚊取り線香に同情しながら、自分の作業に戻った。
「今の子やから、蚊取り線香に慣れてないんやなぁ」

それから、数時間後、
「さあ、片付けよか。蚊取り線香も消さんと…」
彼のつけてくれた折れ残りの蚊取り線香、ぐるぐるが減ってない。
あのぅ、火ついてなかったんですけど、ずぅ-っと。
「今の子でも、蚊取り線香に火ぐらいつけられるやろ…なあ」