日曜日の朝、わたしは、同じ時刻の電車に乗る。同じ車両、同じ扉から。

 席に座って、電車が動き始めてまもなく、一人の中年の女性が、かばんを置いたまま、席を立ち、扉のところまでいって、外に向かって手を振った。手を振り終えてその人は、席に戻った。
ホームで誰かと別れて、電車の中の人間が外の人に手を振るのは、側の目があって、結構恥ずかしい。
でも彼女は恥ずかしそうでもなく、ニコニコ笑っている。幸せそうな笑顔だった。
 へぇ、誰か窓の外にいたんだぁ、駅まで送ってもらった人がまだ、線路脇にいたのかなあ。などと、思 いをめぐらせていた。

 そして次の日曜日の朝、また同じ風景をみた。

 また今日もやってる、って事は、お決まりなのだ。ルールなのだ。電車が通過する時、手をふるって、決めてあるんだ。へぇー、誰に手を振ってるんだろう?気になるぅ!小さい子供がいるって感じじゃないしな。
さすがにわたしまで立ち上がって並んで外を見るわけには行かず、彼女の視線を目で追うけれど、わからない。彼女は、同じように満足げに笑っている。

 そして次の次の日曜日の朝も、同じ風景を見た。

 くそー!今日こそ、確かめてやるぅ!(何をや?)
そして、その日もその瞬間が訪れた。きっと、わたしを見てた人がいたら、首が何倍にも伸びていただろうと思う。必死で彼女の視線を追った。
どうやら、沿線のそんなに高くないビルの窓に向かって手を振っているようなのだ。無情にも(?)電車は走り去り、相手は…見えなかった。例によって彼女は、安心したようににっこりと微笑んでいた。

 ああ、気になるぅ!相手が知りたい!(知ってどうするんや?)
でも、「手を振るから見ててね」という約束、なんかええやないですか。
「もう来るか、もう来るか」
「もう見えるかしら?もう見えるかしら?」
手を振って、
「行ってきます。今日もがんばるよ!」って。

さあ、今度の日曜日もがんばるぞぉ!(何をや?)