三葉は走っていた。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・瀧くん、瀧くん、瀧くん!大丈夫、覚えてる!絶対忘れない!瀧くん、瀧くん・・・!君の名前は、瀧くん!!」

変電所に辿りつく三葉。
そこにてっしーがスクーターで到着します。

「あ、てっしー!」

「三葉!今までどこに!」

「自転車壊しちゃって、ごめんやって」

「はぁ?誰が?」

「わたしが・・・」

「うーん、後で全部説明してもらうでな!」

「落ちるんか!?あれが!」

「落ちる!この目で見たの!」

「見たってか!?じゃあ、やるしかねえな!」

変電所の鍵を壊します。

「これで仲良く犯罪者や!」

スクーターで帰り道、後ろに乗った三葉が自分のスマホをてっしーの耳元に当てます。

「ええっ?私、本当にやるん??」早耶香

「町が停電したらすぐに非常用電源に切り替わるはずやから!したら放送機器も使えるで!」

「さやちん、お願い!出来るだけ放送を繰り返して!」

「やったれや!」

「あぁ、もう!ヤケやーー!」

「そろそろかなぁ?」

「そんなもん適当や!」

と、背後で変電所が爆発、火の手が上がる

「「あああ!はぁあああ!!」

山の上でなお爆発を繰り返す。

「今の何?」

「なぁ、あそこ!」

山の上に火の手を見た人たちが叫びます。

と、祭りで賑わう神社の電気が落ちる。
役場の電気も落ちる。
糸守湖を中心に次々に明かりが消えてゆく。

「なぁ、見て!」

「わぁあああ!!」

彗星を見て叫ぶ子供たち。

ウウウウウウゥゥゥ

サイレンが鳴り響く

「こちらは糸守町役場です。変電所で爆発事故が発生しました。さらなる爆発と、山火事の危険性があります。次の地区は今すぐ糸守高校まで避難してください。門入り地区、坂上地区・・・」

「ここからの放送じゃないだと?誰がしゃべってるんだ!」町長が叫ぶ

「いくぞ三葉!」

「あっ、てっしー!」

神社に着いた2人はスクーターを乗り捨て、ヘルメットを脱いで、町民たちに声をかけます。

「みんな逃げろ!山火事になっとる!!」

「山火事です!逃げてください!!」

「逃げろ!火事だ!逃げろ!」

「皆さん、危険です!逃げてください!!」

「これはとても間に合わん!三葉!」

「はっ・・・!」

涙ぐむ三葉。

「え?どうした?」

「あの人の・・・あの人の名前が思い出せんの・・・!」

「知るかあほ!これはお前が始めたことや!消防出してもらわんと、とても避難させきれん!行ってオヤジさんを説得してこい!!」

「・・・うん」

「みんな逃げろ!高校まで行くんや!」


「こんな田舎でテロなんてあるか!」

「今、調査中やと!」

「今のところ山火事はないんだな?確かか?よし、この放送を早く止めろ!発信源はまだわからんのか?」

「町長、今、鷹山の制作部から・・・」

「高校だと!?」

「繰り返します。次の地域の方は・・・きゃあ!」

「お前なにしとるんや!」

「ああ!さやちん・・・!!」

「やっべえ・・・」てっしー

「うっ・・・うっ・・・うっ・・・」泣くだけの早耶香

「なんてことしてくれたんや!名取」

「こちらは糸乘町役場です。ただいま事故状況を確認しています。町民の皆さまは慌てず、その場で待機して支持をお待ちください」

「家にいろって」

「どうなっとるんや。結局待機か」
消防隊もどうしていいかわからず。


「もう、ちょっと!みんな逃げた方がええんやって!高校が避難所になっとるで!」

「克彦!お前、なにやっとるんや!」勅使河原父に見つかってしまう。

「すまんつぁ・・・ここまでや・・・」首をうなだれるてっしー

そして、彗星が割れます。
割れた片方が地上に向かって・・・

早耶香が町役場の職員に彗星を見ながら伝えている

「あぁ!まじで・・・割れとる!」てっしーが叫ぶ

父親にそれを見せて体を揺さぶるてっしー
てっしーの父はがくがくと体を揺さぶられ、呆然とそれを見上げます。

『ご覧ください!彗星が二つに割れ、無数の流星が発生しています!これは事前の予報にはありませんでしたね!』興奮気味に話すアナウンサー

「うわぁ・・・俺、ちょっと見てくる!」

3年前の瀧はその幻想的な眺めに心を奪われます。



『これほどの壮麗な天体現象を目撃していることを・・・
 まさに肉眼で目撃できていることはこの時代に生きる私達にとっての大変な幸運というべきでしょう。』


三葉は走る。


ねぇ、あなたは誰?

誰、誰?あの人は誰?
大事な人!
忘れちゃダメな人!
忘れたくなかった人!
誰、誰?君は誰!?
君の、名前は・・・!!

「はぁ・・・はぁ・・・!あっ!!ああっ!割れてる・・・!!ああっ・・・!!!」

走る途中で道の段差に躓いて倒れ込み、そのままごろごろと転がり、体がバウンドして打ち付けられる。

再びRADWIMPSの「スパークル」が流れます。

 愛し方さえも、君の匂いがした 
 歩き方さえも笑い声がした

痛みで気が遠くなりそうな中で思い出したのは・・・

(目が覚めても忘れないようにさ、名前書いとこうぜ)

倒れたまま右手を拡げて見ると、そこには・・・

すきだ

「はっ!・・・」

「これじゃあ・・・名前、わかんないよ・・・」



必死に起き上がりながら、右手を左手て握りしめるように、泣く三葉。

泣いてる場合じゃない!

そして、意を決して再び走り始める。

「お父さん!!」

肩で息をしながらもたれるように役場に到着した三葉
そこには一葉と四葉の姿も

「三葉!」父

「お姉ちゃん!」

「お前、また・・・」父が冷たく言い放とうとする。

そこには、傷だらけ、泥だらけになりながらも真剣な眼差しの三葉がいた。

「はっ・・・!」
目を見張る父

真っ直ぐに父を見る。
そして、歩み寄る!


中学生の瀧は夜空を見て感動します。

それはまるで夢の景色のように、ただひたすらに美しい眺めだった。


暗転-







割れた彗星の片割れが隕石となって神社を直撃!





大爆発が起こり、橋が、家が、車が吹き飛び、森がざわめく

湖が燃え、糸守湖の上に大きな窪みができる。




俺、こんな場所でなにやってんだ?


ふと我に返った俺は見知らぬ場所にいた。
ここはどこなんだ?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

いつの間にか癖になっていた。
無意識に髪の後ろを触ること
右手のひらを見つめること・・・

電車の窓から外を見る。

”次は代々木、代々木”

不意に、ハッとなる。

ホームに赤い髪紐の女性が映った。

俺は、電車を降りて走り出す。
しかし、さっき見た人はもういない。

そして、また俺は手のひらを見ていた。

ずっと何かを、誰かを探している。
いつからか、そんな気持ちに憑りつかれている。

就活中だった。

「御社を志望しました理由は-」

「人が生活している風景には・・・」

「東京だっていつ消えてしまうかわからないと思うんです」

「だから、記憶の中であっても、なんていうか・・・人をあたため続けてくれるような風景を・・・」


「はぁ・・・」

「面接、今日で何社目だ?」

「数えてねぇよ」

「受かる気がしないな」

「お前が言うな!」

「スーツが似合わなすぎだからじゃね?」高木

「お前だって似たようなもんだろ」

「俺、内定2社」高木がニッと笑う

「俺、8社」司は当然と言う顔で言い放つ

「うぅ・・・」

探しているのが、誰か、なのかどこか、なのか、それともただ単に就職先なのか、自分でもよくわからない。


はぁ・・・


ふと、LINEの着信があった。
俺はコーヒーを飲み干して、立ち上がった。

「お、就活中だね~」奥寺ミキが言う

「だいぶ手こずってますが・・・」

「うーん、スーツが似合ってないからじゃないの?」

「ええっ?そんなに似合ってないすか?」

「うふふふふふ・・・」

「今日はどうしたんすか?」

「仕事でこっちまで来たから、ちょっと瀧くんの顔でも見ておこうと思って」

ビルの大ビジョンに

『彗星被害から8年』

大きな文字が流れる

「私たち、いつか糸守まで行ったことあったよね。あれって瀧くんがまだ高校生だったから・・・」

「5年前」

「そんなに・・・なんだか色々忘れちゃったなぁ」

あの頃ののことは俺ももうあまりよく覚えていい。

けんかでもしたのか、司と先輩とは別々に東京に戻ったこと、どこかの山で一人で夜を明かしたこと。

記憶はその程度だ。
ただ、あの彗星を巡って起きた出来事に、一時期俺は妙に心を惹かれていた。

彗星の片割れが1つの町を破壊した、大災害。

しかし、町の住人のほとんどが奇跡的に無事だった。
その日、偶然にも町を挙げての避難訓練があり、ほとんどの町民が被害範囲の外にいたというのだ。

あまりの偶然と幸運に、様々な噂が囁かれた。
そういう記事を随分熱心に、あの頃俺は読んでいた。

一体何がそれほど気になっていたのか。自分でももう理由はよくわからない。
あの町に、知り合いがいたわけでもないのに。


明らかに、時間軸が書き換わっています。
もう1つの不文律-
歴史は変わらない。
でも、変わってしまった歴史はそ後の全てが自動的に修正される、というものです。


もう日は暮れていた。

「今日はありがとう。ここまででいいよ」

「君もいつかちゃんと、幸せになりなさい」

手を振る先輩の薬指にリングが光っていた。

また、ふと右の手のひらを見る。

ずっと何かを、誰かを、探しているような気がする。


-季節は移り替り

冬になってもまだ俺は就活をしていた、雨宿りに立ち寄った珈琲店で紙コップのコーヒーを飲み干し、手帳に目を落とす。
×印が増えていくだけの手帳。

ふいに声が聞こえた

「やっぱりもう一回ブライダルフェアに行っときたいなあ」

「どこも似たようなもんやろ」

「神前式もいいかなって」

「お前、チャペルが夢だって言っとったに」

「それより、てっしーさぁ、式までにヒゲ剃ってよね」

手が止まる

「私も3キロ痩せるでさ」

「ケーキ食いながら言うか?」

「明日から本気出すの」

思わず振り返る。

2人はすでに席から立ちあがってそのまま店を出て行った。
その後ろ姿からなぜか目を離せずにいた


雨は雪に変わっていた。
雪が舞う町で、俺は歩道橋を歩いていた。
傘は持っていなかった。

その時、女性とすれ違った。

目の端に赤い髪紐が一瞬映りハッとする。
だが、そのまま歩き出す。

女性も何かを感じ、傘越しにふと後ろを振り返る。

背を向けて歩く男性

彼女もまた、一瞬立ち止まっただけで歩き出す。


なんでもないやのイントロが流れる。


区立図書館に入った。

消えた糸守町・全記録

と書かれた写真集。

大きな湖
神社の階段
鳥居
踏切
高校の校舎

見覚えがある気がした。


今はもうない町の風景に、なぜこれほど心を締め付けられるのだろう。


そして春、俺は就職した。
朝、目が覚めると右手をじっと見る癖はまだ治っていない。


私はいつものように鏡に向かい髪紐を結う。
アパートを出て、自動改札をくぐって通勤電車に乗る。
電車のドアに寄りかかり、外を見ていた。

はっ!!

並走する電車に乗っている男性を見てはっとなる。


はっ!

電車のドアに寄りかかり、外を見ていた俺は、並走する女性と目が合った瞬間、
心臓を掴まれたようにドキッとする。


俺は思わず電車を降りて街中を走る。
彼女を探して




私は千駄ヶ谷駅を降りると彼を探して走っていた。


「はっ・・・」

「はっ・・・」


ずっと誰かを・・・

誰かを探していた!


「はっ・・・」

路地を曲がり、階段に行きついた。

見下ろすと、下に彼がいた


「はっ・・・」

見上げた階段の上に彼女がいた。

俺はゆっくりと階段を上っていく。
でも、その姿を直視できずに下を向いて。

彼女も階段を下りていく。


彼は何も言わず、私も何も言えない。
目を伏せたまますれ違う。
その瞬間、苦しい気持ちになる。
胸が締め付けられそうに・・・


くっ・・・

なぜ言えない・・・

階段を上りきる寸前、俺は振り返り、ようやく声をかけた。


「あ、あの・・・!」

「はっ!」

「俺、君をどこかで・・・」

彼女も振り返り涙顔で

「はっ・・・ははっ・・・わたしも・・・」



そうしてにっこりと微笑む顔は、あのかたわれ時に見た笑顔にそっくりで・・


声が重なる

「「君の名前は」」