バスはショッピングモールについた、最近映画館も増設されて前から流行っていたというのに、さらに客が増えて不景気な感じなんてちっともしない。

店に入ると先ほどの暑さから一転して少し寒いぐらいの冷房、だけど、汗ばんだ肌には心地よくもかんじる。

これが時間がたつとジワジワと冷えてくるんだけどね・・・。

「さーて、お昼も少しすぎちゃったし、ご飯なにたべよっか。」

明穂ちゃんにそれとなく好みを聞いてみる。

「私はなんでもいいですよー。特別好き嫌いとかないですし。」

うーん、そういわれても、私も特別食べたいものもないし、何でもいんだよね。でも、できることなら、あまり長蛇の列には並びたくないかな。いくらおいしいものでも並んでまで食べる趣味はあまりないのよね。

「どうしようかなー。」

レストランエリアをぶらぶらしながら、うどん屋、ラーメン屋、和食、中華、なんでもあって、結局全部一通り通り過ぎてしまった。

「あれ、終わっちゃった、何食べるー?」

またUターンする、私はすかさず、明穂ちゃんの手を握る。

明穂ちゃんも少しずつなれてきたのか、少し照れたそぶりをみせたけれど、抵抗する感じはなくなってきた。

「わたし、パスタ食べたいです。」

そういって視線の先を見るとイタリア料理店、店先には何人か座ってまっている人がいる。

「う、うん、いいよ。」

私は少し待つのに抵抗があったけれど、明穂ちゃんが望むのならしょうがないかと、行列用にならんべてある最後尾の椅子にならんで座った。

舞子とのデートだったら私が即刻却下してるところだけど、大好きな明穂ちゃんと一緒なので、断るなんてできないのよね、まずそこが今までと違った、そして、明穂ちゃんと何気なくメニューを見ながら話しているだけで、とてもとても楽しかった、まってる時間なんて一瞬で終わってしまった、むしろもっと待っていてもいいと思えた。

舞子と一緒にいるときは、周りの人間の動きや、可愛い子やかっこいい子なんかに目が取られて、私はなんで舞子なんかと一緒にいるんだろう、なんて変な気持ちになっていたから、無意識に人ごみを避けるようにしていたのかもしれない。

だけど今は周りなんて見えてない、私には明穂ちゃんしか見えてない、っていうか、見てない。

そして周りにはたくさんの人がいようがいまいが、どこだろうが二人の時間がとても幸せだった。


食事を終えてレジに向かう。

「私おごるよ。」

「そんな、ちゃんと私払いますから。」

先輩だし、誘ったの私だから、払ってあげようとおもったけど、明穂ちゃんはかたくなに払うというので、そこまで無理におごることもないかと私は引き下がった。

そのやり取りを見て、店員のおねえさんがニコニコとそのやりとりを見ていた。愛いわねこの子達とでも思ってるのかな・・・。


「ちょっとみてまわろっか。」

「はい。」

私は再び明穂ちゃんの手をとって歩き始めた、明穂ちゃんの手のぬくもりが伝わってくる、それだけで、うれしいし楽しい、それに、すぐ隣に隣の明穂ちゃんの横顔が可愛くて可愛くて・・・。

うれしそうで、それでもって少し照れくさそうな感じ、ずっと眺めていたい・・・。


調理器具やプレゼント用の包装紙、いろんな小物がおいてある雑貨屋さんって言えばいいのかな、私はあんまりお世話にならないタイプのお店だよね、ナチュラル系っていうか、天然素材というか色素が薄いかんじのお店。

私が軽く見て通り過ぎようとしたら明穂ちゃんの足が止まる、やっぱりこういうお店好きなのかな、私もなんとなく見て回る。

すると、目にとまったくまのストラップ。これ可愛い。

「ねぇねぇ明穂ちゃん、ちょっとー。」

小さな観葉植物を見ていた明穂ちゃんを呼ぶ。

「はい?」

突然私に呼ばれて不思議そうな表情をしている。

「このクマのストラップ二人で持たない?」

そういってわたしは小さな白いテディベアのストラップを見せた、ひとつは赤い服をきていて、もうひとつは緑色の服を着ていた。

「わぁ、可愛いですねー。おそろいですか?」

「えへへ、せっかくだからさ、どう?」

「いいですよー、ありす様はどっちの色がいいですか?」

私は赤のほうが好きかなー、とかおもったけど、緑色にした、明穂ちゃんのほうが赤に合うかな、なんとなくだけど。

「私は緑にする。」

「じゃぁ私は赤ですね。」

私が二つ持ってレジに行こうとすると

「ひとつは私が払いますー。」

明穂ちゃんは私が握っていたクマのストラップのひとつを取ろうとする。

「これは私が払うってばぁ~。って言うか払わせてよー少しぐらい~。」

「でもー。」

煮え切らない感じの明穂ちゃん、うーんそんなに払わせたくないのかなぁ。

「そうだ、じゃぁ、私が赤いクマ買うから、明穂ちゃん緑のクマ買って。」

「は、はい?」

「それでさ、お互いにプレゼントするの!あはは、なんかヘンだけどよくない?」

ただおごるだけでも、普通に自分のを買うよりもずっと、二人がつながってる気がする買い方だと思えた。

「そ、それならいいですね。」

明穂ちゃんは不思議そうにしていたけれど、すぐに状況を理解して、快諾してくれた。

まず私が赤いクマを買う、そして明穂ちゃんが続いて緑のクマを買う。



しばらくフロアを見て回ると喫茶店らしいお店が見えた、よくみるとケーキ屋さんのようで、小さいけれど少し座って食べれるスペースがあるようだった。

「ねぇ、少しお茶しようか?」

「そうですね、ずっと歩いてましたもんね。」

ケーキセットを二人で注文、しばらくすると、私はコーヒー、明穂ちゃんはミルクティ、そして今日のオススメと書いてあったチーズケーキがやってきた。

「うわぁー、おいしそうだねー。」

私も明穂ちゃんもケーキには目がない、っていうか、嫌いな女の子なんていないか。

お茶をしながら、先ほど買ったクマのストラップを袋から取り出す。

明穂ちゃんも袋から取り出した。

「じゃぁ、プレゼント。」

顔がにやけてしまう、半笑いの状態で両手でストラップを持ってうやうやしく明穂ちゃんの前に差し出す。

明穂ちゃんも、私の前にクマのストラップをだして、お互い交換。

お互い笑顔になってしまう。

明穂ちゃんはさっそく携帯にストラップをつけていた、私もつけて、お互い携帯と相手を見ては笑顔になっていた。


少し座って休んでいると、明穂ちゃんが時間を気にし始めた。

「どうしたの?何か予定あった?」

「実はこの後クラスの子達と夏休みにはいったから、朝までカラオケする~?なんて話してたんですよ。」

「あ、そうなんだ、ごめんね用事あったらそっちを優先してくれてもよかったのに。」

なんか、無理やり誘ってしまったみたいで申し訳なく思ってしまった、一緒にいたいけど、明穂ちゃんに無理強いする感じにはしたくないから。

「ぜんぜん気にしなくていいですよ、別にカラオケなんていつでもいけますし。」

「クラスの子とも仲良くしなきゃ、変な先輩に付きまとわれて困ってるーとか愚痴言ってストレス発散しなきゃ。」

私は自虐的なネタをにやにやしながら投げかけた、明穂ちゃんがどんな反応するか見たかったというのもあるんだよね。

「そんなぁ、私ありす様と一緒にいられて楽しいですよ~。素敵な先輩ですー。」

「ぇー、変な先輩って、私のことなんて言ってないけど?やっぱり明穂ちゃんにとって私って変な先輩なんだ。」

うぇーん、とうそくさい泣きまねをしてみせた。

「ありす様、もぉーそういう意味じゃないですってばぁ。」

ふふ、明穂ちゃんもだいぶ慣れてきた感じね。


「じゃぁ、そろそろ帰ろうか、人気者を独り占めしちゃ悪いもんね。」

荷物を持って立ち上がる。

「人気者って、私なんてありす様に比べたらそんなぜんぜんです・・。」

恐縮した様子でちぢこまって立ち上がる明穂ちゃん

「私にとって明穂ちゃんは人気者なの、私に大人気なのよ。」

「はずかしいですよ、そんな・・。」

私は普段なら恥ずかしくていえないような台詞も今日はポンポンと自然にでてくる、これが恋の魔力なのかな。

店から外へ出てバス停へ向かう、時刻表を見るとまだ20分ほど待たないと来ないようだった。

店に戻ってもよかったけれど、次のバス停まで少し歩こうという話になった、だいぶ日も落ちてきたし、なにより、お店の中は人がいっぱいで落ち着かなかったから、ゆっくりと二人のペースで話したかったていうのもあったんだよね。

夕方といっても、まだ日差しはあるので、なるべく日陰を二人でゆっくりと歩く。

すかさず手を握る、もう明穂ちゃんもなんとなく察してくれて、手を握り返してくれるようになっていた。

「今日はすっごく楽しかった、ありがとね。」

「いえ、私のほうこそありがとうございますー、楽しかったです。」

少し無言・・・。

でも、満ち足りた無言だった。

明穂ちゃんの携帯が鳴る

「あ、メールです。」

携帯を出してメールを確認している。

「今日のカラオケ1時間遅れるみたいです。せっかくありす様とデートだったのに、慌てて損しちゃいましたね。」

明穂ちゃんはメールの返信を終えると、私のプレゼントしたクマのストラップをうれしそうに眺めていた。

私も思わずチラッと自分の携帯のストラップを見てにやけてしまった。

しばらく歩くと次のバス停に着いた。

周りはあまり何もないのに、妙に立派な屋根とベンチもあるバス停だった、おそらくショッピングモールができたときに一緒に整備されたバス停なんだろうと思う、バス停の周りは真新しい分譲地が広がっていて、まだ家はまばらに建っている程度で、利用者もあまり多くなさそうだった。

バス停のベンチに座る前に声をかけた。

「ねぇ、明穂ちゃん・・・ちょっと抱きしめていい?」

「っ・・・・・・。」

明穂ちゃんは荷物をベンチに置いた、うつむいて恥ずかしそうにしている、無言の肯定だった。

私は抱きしめた。自分だって恥も外聞もあるからこんなところで抱きしめるなんて、非常識だとおもう、だけど、だけど、抱きしめたかった。可愛い明穂ちゃんを少しでも近くに感じたかった。知れば知るほど好きになってしまった。

抱きしめると、明穂ちゃんの体は恥ずかしさと緊張でこわばり、少し震えている感じもした、明穂ちゃんの香りが鼻をくすぐる、香りといっても、淡い髪の毛のトリートメントかシャンプーの香りしかしない。明穂ちゃんは香水とかはあまりつける習慣はないから、でも、それがすごく魅力的に感じる。

すっと、体を離し、明穂ちゃんの顔を見つめる。

「いい・・?」

明穂ちゃんは顔を真っ赤にしていたけれど、今までと違って顔は私の真正面を捕らえ目を閉じた。

そっと口づけ。

腕の中の明穂ちゃんの体は硬直していた様子だったけれど、口づけをした瞬間さらにこわばった。

これ以上は可愛そうな感じがしたので、さっと身を引いた。

え?という感じで明穂ちゃんは私を見ている、あまりにも淡白な口づけに驚いた様子だった。

「明穂ちゃん、かたすぎるよっ♪」

少し冗談めかして明穂ちゃんの目の前でにやけてみせた。

「も、もう・・・・。」

明穂ちゃんは恥ずかしすぎて言葉も出てこない様子だった。

私はベンチに座り、明穂ちゃんも座るように促した。

お互い見つめあうことはなかったけれど、ベンチの上で手をずっと握り合っていた。

しばらくするとバスが遠くに見えてきた、私は明穂ちゃんのほうは見ず、正面を見据えたまま、そっと問いかけた。

手をぎゅっと握って・・・。




「ねぇ、明穂ちゃん。今夜、予定ある・・・?」






「・・・・・ない・・・です・・・。」





~青い慈悲~ おわり