「ごきげんよう」
いまどきありえないほどのお嬢様学校、通称「ミカ女」の挨拶。
今日もいつもどおりの登校風景が広がる、まだ肌寒い感じのする空気、独特のぬるさを持った春風の中を入学したての初々しい新入生が登校している。

自分はといえば、お嬢様学校は堅苦しいとか文句を言いながらもこの学校へ通い続けている。
気づけば3年生、はじめは慣れなくて違和感を感じながら登校していたけれど。
今では当たり前のように「ごきげんよう」なんて挨拶しているのだから、慣れっていうのは恐ろしいなと改めて思う。
さて、来年はどこで何をしているやら、そんなことを考えつつ教室へ向かう。

教室の前でキョロキョロと周りを見回す挙動不審な見慣れない女の子がいる。
目の前の光景に私の体は固り思わず「げっ。」というはしたない声が漏れてしまった。
私に用事はないよね、こっちこないでね、と心の中で願う。
しかし、周りを見回していた女の子は私の顔を見つけると、廊下を小走りに駆け寄ってくる。
私のお願いはあっという間に却下されることになってしまった。
「あの、美加先輩!これ私のメアドです・・・。よろしければメールください!」
2年生だろうか、かわいらしい少女が精一杯の声を搾り出して私に告げる、小刻みに震える手にはちいさく折られたピンク色の便箋らしきものを持っている。
「気持ちは嬉しいけど、アタシ特定の女の子と仲良くする趣味はないの。ごめんなさいね・・・。」
私は苦笑いにも似た笑顔でやさしく告げる。このセリフをいうのは何度目だろうか。
「いえ、私のほうこそご迷惑おかけしました、ごめんなさい・・・。」
彼女は目を潤ませながら肩を落とし力なくお辞儀をして廊下を小走りに去っていく
そんな後姿を見ながら
ふぅ・・・。と心で溜息をつく、申し出を断られたほうは悲しいだろうけれど、断るほうもいい気分じゃないのよね。

朝から少し苦い気分で席に座る、第一声は溜息だ
「はぁ~。」
その溜息をかき消すような元気な声が後ろから、いかにも無理をした感じの可愛い子ぶった声がする
「私のお姉さまになってください!」
声の主は知っている、私は振り向きざまに
「はぁ~。」とあてつけの溜息ついてやった。

声の主は、「新田泉美」自分の後ろの席に座っている1年のときから同じクラスだ。
泉美は私と同じ編入組で価値観が近いのでお嬢様方より気楽で話しやすい事もあって二人でいっしょにいることが多い。
私のミカ女での唯一の親友といったところかな、ただ彼女はおしゃべり好きで、お嬢様方ともよく噂話なんかで盛り上がっている。
しかも、今回のような色恋話になると、私の事だとしても容赦なく噂話のレパートリーになっている。、

「さっきのラブレターの子、美加が来る20分も前からあそこで待ってたのよ、一人ぐらいつきあっちゃえばいいのにぃ~。」
泉美は私のあてつけの溜息など気にもかけず楽しそうに話しかけてくる。
「アタシの身にもなってよねぇ~。」
と、うんざりした感じで言っても、人の不幸はなんとやら。
泉美は目を輝かせている。
これ以上何かを話すと、今日の朝の出来事にとてつもない背びれ尾ひれをつけた噂話になりかねないので、下手なことをしゃべらず、聞く側にまわるのがベストだよね。

「いいじゃなーい、モテてー美加と変われるなら変わりたいー!だってー美加って背が高くてスラッとしててモデルっぽい体系だし、顔もかっこいいしぃー、私がもし下級生だったら、美加みたいなカッコイイお姉さまがいたらとか、思うかもよ?でも~今は美加の性格知ってるから絶対に無理だから諦めるけどねー、それに今は私彼氏がいるしー、って聞いてよこの前彼氏がさー・・・・。」
泉美のマシンガントークは授業が始まる直前までとめどなく続いた。