母が戻って来ない。

隣に居るのに,心が遠い。
親戚に逢うと,いつもこうだ。

20代の頃。
初めての恋。

特殊な職業だから・・・と,母に反対され諦めた。

初めての恋を諦めるため,結婚を考えた彼とは,お互いに一人っ子だから・・・という理由で,半ば強制的に別離(わかれ)させられた。

その時の母は,半狂乱な状態で,まるで鬼のようだった。

そんな母を見るのが怖くて,私は,自分の人生から「結婚」という選択肢を抹殺した。

生前の父も,親戚も,祖母も誰一人,私の味方をする者はいなかった。

無言で私一人に我慢を強要し,何も無かったように,これからも無いように,振る舞った。

だから,今でも私は母を私に押しつけた親戚に逢うのが大嫌いだ。

自分たちは母を放棄した癖に,笑顔で「元気にしてる?お母さん大事にね。」なんて台詞,私には受け入れられない。

当時の母を振り返る時。
大事に育てた娘を他人に盗られるのが嫌なんだ・・・と,自分に言い聞かせていた。

でも,最近想う。
母は,私の将来を心配したり,幸せを願って反対したんじゃない。

自分が将来,独りになるのが恐くて,私を縛りつけたのだ。

母が望むから,安定した職業に就いた。
母が望むから,独りで責任を背負うことを選んだ。
母が望むから,終の住み処(マンション)も買った。
母が望むから,不自由のない生活を維持している。

なのに。
たった一晩,親戚に逢っただけで,私の努力は水の泡と化す。

たまに逢う彼等は,昔,自分を正当化してくれた心強い味方。
私は,母と親戚との(あるはずのない)絆に亀裂を入れようとする邪悪な存在。

だから,しばらく母は私の元に戻って来ない。

ここまでなら,いつものこと。
いつもの繰り返し。
私は,そんなに落ち込まない。
でも昨夜は・・・。

従妹の結婚の報告があった。
彼女は,厳しい父親と仲が悪く,19歳で家を飛び出した。
と,言っても学費の面倒はみてもらうちゃっかり者。

それから7年。
男性と半同棲をしているらしい噂は耳にしていたが,遂に来年結婚するらしい。

あれだけ,「男に負けたくない。結婚は絶対しない。」なんて豪語してたのに,「バイトの給料じゃ食べていけないし,将来一人は不安だから。」と,いとも簡単に結婚に翻った。

もちろん,母の弟である父親は,駆け落ち同然で家を出た娘の結婚に反対していたが,半ば諦めたように昨夜は,祝福。

「娘が好きならしょうがない。」

私には「好きでも,お母さんのために諦めてくれ」と言った同じ人の台詞とは想えない。

集まった親戚も口々に,「女は結婚するのが一番」なんて言い出す。

私が結婚できないことを知りながら,
「あなたは結婚しないの?」
「仕事が好きだからしょうがないわよね」
「お母さんがいるから,結婚出来ないわよ」
なんて,笑いながら非情な言葉を好き放題に投げかける。

まるで,昔のことなんて忘れたかのように。
ううん,忘れてないから,こうやって,時々私に釘をさす。

「あなたは結婚考えちゃだめよ」と。

母なんて,「この娘,男嫌いだから」とトドメを刺す。

違う。
私は,自分に暗示をかけてるだけ。
「私は,独りが好き。
将来,独りになっても大丈夫。
強く生きていける。
仕事は私を助けてくれる。」と。

でも,やっぱり独りは怖いから,結婚に繋がらない恋をする。

そうして,やっと私は人心地ついて,自分の足で自分を支えることが出来る。

結婚に繋がりそうな恋は,自分から絶つ。
そうしないと,今までの人生に迷うから。

でも,日々の小さなことにHappyを見つけることが出来る私は,きっと幸せなんだろう,とも想う。

こんな不安定な気持ちの夜は,墜ちたまま眠りにつこう。

明日,目が覚めたらすべて夢ならいいのに・・・。