部屋の中央で正面を見据え,一寸も動くことなく座する姿。

その真っ直ぐな視線は,映っているはずの私の姿を透過し,今宵,彼が挑む世界を視ている。

色も形状(かたち)も身体に馴染んだ,黒いシャツ姿の素顔の彼。
柔らかな笑顔と,いつも変わらない2人の歩幅。

街路樹が並ぶ街を散歩し,ふらっと立ち寄ったSupermarketから,嬉しそうな顔で手渡される一本のワイン。

飲めないのに,いつも私の分も買ってくれる。

忙しい時間の隙間に,少しでも一緒の瞬間(とき)を重ねようと努力する不器用な愛し方。

「ふいっ」と寝起きを襲い,驚いた私の顔を眺めて,声をだして笑う少年のような彼。

そんな大層な危険なんて日常的には起こらないけれど。
ちょっとした危険から,然り気無く庇ってくれる。

どの彼も,愛しくて,愛しくて,愛しくて・・・。
どうやったら,彼にこの愛しさを,上手に伝えられるのだろう。

いつか私も,彼に愛しさをあげたい。
その時は,私も貴方に手紙を書こう。

貴方がレシートの裏に記したあの日の言葉を君に。
『いつまでも語り継ごう。君との物語を』と・・・。


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