無数の紙テープに彩られた決戦のリング…

彼は一体何を想い、その光景の中で佇んでいたのだろうか。






2016年11月23日

小雨模様の空に包まれた沖縄県県総合体育館内で行われた『琉球ドラゴンチャンプルー2016』

昨年に続き開催された“県総”での興行は、琉球ドラゴンプロレスの中で、年間を通して最大級の規模を誇る一大イベントである。

飲食ブースの豊富さに、選手の意欲を増大させるべく導入された特設の花道。
子供達を従えて巨大な龍のバルーンを会場内狭しと優雅に闊歩する道化師。
いずれも昨年を遥かに凌ぐ会場内の華やかなスケールアップに、団体としての意気込みや、成長を肌で感じることができた。

歴戦の猛者達の参戦や、生ける伝説レスラーの立会い。
ボランティアスタッフの方々の下支えは、発展に困難を極める島国のエンターテイメント界において、沖縄の人々にプロレスで夢と勇気と感動と笑顔を。
と、地道に活動を続けてきた彼と、彼に惹かれ、導かれた者達の努力の賜物であろう。

そんな背景を背負い、彼は普段に見られない筋肉の強張りと、整わない心拍に戸惑いを隠せないまま、決戦のゴングを迎えたに違いない。

立ち上がりから明らかな身体の硬さが見てとれた。
それを察してか知らずか、もう一人の主役が自らの世界観を彼にぶつけ、意識の中に潜む彼の闘争本能を呼び醒す。

『アンタはこんなもんじゃねぇだろ!』

『憧れの人の前で、こんな闘いしか出来ねぇのか⁉︎』

反則行為すら意に介さない。

容赦なき場外での凶器攻撃の連続。

それは、彼を想い、闘いを共にして芽吹いた朋友…佐々木貴の愛のある激励だったのかもしれない。

そして彼は意識の中から意識を飛び越える。

決死の覚悟を持ち、場外へ放たれたケブラーダ…。

命を惜しむという簡単な言葉には置き換えられない、極めて危険な荒技である。

後に語られるが、本人いわく、ぶっつけ本番だったらしい。

リミッターの外れた両者の中には、命さえもプロレスの前では全く意味を持たなかったのかもしれない。

投げっぱなしジャーマンの応酬に、急所への躊躇ない蹴り。

支払った対価としては申し訳ないほどの世界観の連続に、私の血流や感情も狂喜乱舞していた。

そんな折、熱気の渦を彼が一手に収め、やがて死闘にピリオドが討たれる。

掟破りの必殺技は、観ている者達の瞳孔を開き、呼吸という生命活動に必要な現象をも、一時休止に追い込んだであろう。

無条件に叫ばれる観衆を巻き込んだスリーカウント。

決戦の19分24秒は、この先語られるであろう琉球ドラゴンプロレスの歴史の中で、極めて重要な19分24秒となったに違いない。
私はそう確信する。

本能が魂を揺さぶり、知能や知識や経験を凌駕し、その空間・空気を、己の声に換えた子供達の声援が、今後も生ける証人として、この団体に心血を注ぐであろうと感じたからである。

熱気と興奮の中心に立ち、生と死の狭間をくぐり抜け、スポットライトを浴びながら、彼は込み上げる想いを震える声で語った。

『これで死んでもいいと思って飛びました』

何がその時彼の胸に去来したのか…

それは彼には得られない答えなのかもしれない。

今は今しかない

常々そう語り、日々を全力で駆け抜ける…

彼の名はグルクンマスク。

2016年11月23日

無数の紙テープに彩られた決戦のリングに彼は佇んで居た。