主治医S先生からのお話は
かなり厳しいものだった




胃の癌は広がり
癌性腹膜炎をおこしています
そのため腸の一部分が狭窄を起こしている
便の詰まり具合いを見て人工肛門をつけるか
どうかを診るため一度入院



それが落ち着いて
癌に対しての治療をするならば
抗がん剤になります


ただ・・


抗がん剤は癌を治すものではありません
余命を延ばす可能性をつくる治療で
必ずしも良い方向へ
運ぶものではありません


抗がん剤をやることで
体力が落ちて
癌に付け込まれ
逆に悪くなるパターンもあります


抗がん剤をやるかやらないかは
ご本人とご家族で話し合って
入院中に決めてください








今朝、父と歩いた時

「主治医はどんな先生なの?」
って聞いたら


「若造だな」って言ってた




S先生は見た目頼りない印象だったけど



とても正直に真実を話してくれたことに
私はホッとしていた









「パパ?」






あ、アゴでてる
真剣になるとパパはアゴがでる








「人工肛門だけはいやなんですよ
それだけは
どうにかなりませんかね?先生」




このときはさ

(え、そこ!?
今この話の流れで
人工肛門が嫌とか‥言う???)



って思ったけど



今思うと さすがだよ
どんなときも
嫌なことには嫌と言える
自分を大事にすることを
この状況でサラッと言えちゃうってさ



カッケーよ パパ♡





S医師が
父の体がどんな状態で
どんなことを私たちに伝えたいのか
私にはよくよく わかっていた




私も看護師
命の現場には何度も携わってきた




父はもう長くない
抗がん剤治療ももう意味がないだろう


でも医師として
状況をわかってない患者に
できるだけこの厳しい状態を
分かりやすく伝えて



最期
納得する
いのちの選択を
患者にして欲しい







これだったと思う







「先生 もし治療しなかったら
   父はあとどのくらいですか?」




(いきなり相談もなくすげー娘だわな)





でもこの時の私は
父は状況をわかってない
自分の状態を全然わかってない
急に癌って言われて
仕方ないけれど
人工肛門やだとか言っちゃって


それもわかるけど
生まれてから
67年間
こんだけ好き放題に
生きてきたのに?



あと短い残りの時間を
苦しんで終わるかもしれない
治療をするって言うんか?


そんなことは
あたしは許さない


自分の残された時間を
最後まで
パパらしく生きてくれ!



っていう想いでいっぱいだった






「言ってもいいのですか?」



「余命はあくまでも今ある医学的所見からの
統計的なものです。
聞くかどうかはご家族で・・ 」




「パパどうしたい?」



「・・・・」





「先生が言うように抗がん剤はやってみないと
わからないし。楽な治療ではない。
残された時間がある程度分からなくて
決められる?」



みたいなことを私は言ったと思う




ユウさんを見た
奥さんの目からは涙が溢れてた

「決められないよりさちゃん」




ですよね






そして3人で同意して
(正解には聞いてイイよね?って言ったら
パパはうんって言った)




「先生 お願いします」



















「 あと 2ヶ月です 」














「にかげつ・・」

 って父は言った






時が止まった感じって
あんな感じのことをいうんだろうなぁ





さすがの私も
2ヶ月とは予想しておらず
半年位って言われるかな‥なんて
思っていたので



驚いた






人は自分の余命を告げられたら
どんな気持ちになるのだろう



想像でしか
できないけど




とても
パパが可愛そうに思えた




パパ大丈夫?
パパはこの現実をどうやって
受け止めるのだろう








病室に戻ると父が言った




「俺は2ヶ月かぁ。。
あと2ヶ月しか生きられないなら
京都に行きたいなぁ」




あぁ行っておくれ
最後まで
好き放題やっておくれ



なーん思ったけどさ



今振り返ると
そんなことって普通言えないよね





昨日
あなた癌ですって言われた人が




今日
余命2ヶ月ですって
言われて





そうかぁ
ほんなら京都に行きたいぁ




って考えられる?







やりたいことだけをやるって
自分勝手みたいな感じするけど
もし
自分勝手が許されるなら
あなたは
やりたいことだけできますか?





2ヶ月くらいで死にますよって
言われた状況下でも
自分は何がしたいのか?を
瞬時に考えて
言葉にして
行動するって



たぶん
普通はできない



ずっと
そうやって生きてきたんだよね







父が
私に教えてくれた
自分を大事にすること
そして
周りの人を
自分と同じように大事にすることを




この日から約1ヶ月
いのちをかけて教えてくれたよね












「おねえちゃん
明日新聞買ってくるの忘れないでね」




「わかったよ」




パパの大好きな京都だよ