私の家の近くに小さな町工場があった。
かなり古い創業なのか、会社名は風雨にさらされて読む事も出来なかった。
何を製作しているのか見当もつかないが、機械の音よりもAMラジオの音が聞こえる事の方が多かった。こんな小さな町工場では、大量受注はこなせないとだろうと思っていた。
もっとも、今でも何を製作していたか分からないままだったが・・・。
ある日、AMラジオの代わりに二人の男の声が聞こえた。
「宣伝でもしないと、このままじゃダメだな」
「それは分かってる。でも宣伝に掛ける金が無い」
「金がないから宣伝が出来ない」
「宣伝出来ないから金が無い」
「手っ取り早く出来る方法はないかな」
「何かの便乗でも好いんだがなぁ・・・」
「あるぞ、あるぞ!」
「なんだよ、何だよ?早く教えろよ」
「お前さぁ、TVCMでご覧のスポンサーって言うのを聞いた事があるだろう」
「あるある」
「この工場を、ご覧のスポンサーと社名変更するんだ」
「あっ、だったら日本中に工場の名が知れ渡るな!」
「よ~し、ご覧のスポンサーの前途を祝してチューハイで乾杯だ」
「ご覧のスポンサーに乾杯!」
宣伝に掛ける金は無くても、焼酎を買う金はあるようだ。
一週間後、ご覧のスポンサーとペンキで殴り書きされた町工場は、某金融機関の管理物件になっていた。