- 天国までの百マイル (朝日文庫)/浅田 次郎
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主人公の城所安男は、自分の会社をつぶしてしまい、いまや別れた妻子への仕送りもままならぬほど落ちぶれた中年男。
ある日、心臓病で入院する母を見舞った安男は、主治医から病状の深刻さを告げられ愕然とする。
そのまま治療を続けても母の余命はごくわずか。
残された道はただひとつ、謎の天才外科医にバイパス手術を施してもらうこと。
衰弱した母をワゴン車に乗せた安男は、房総のひなびた漁村にあるカトリック系病院目指して、100マイルの道のりをひた走る。
はたしてその先に奇跡は待っているのか――。
年老いた親の介護や終末医療というテーマはきわめて現代的で、自らの身の上と重ね合わせずに本書を読み進めることはまず不可能にちがいない。
そして、それぞれに成功者となり、老母とのかかわりを避けようとする主人公の兄たちの冷淡ぶりに怒りが込み上げてくる。
だが一方で、その兄たちの姿がそのまま、読む者自身を写し出す鏡であることにも気づかざるを得ない。
そんな恐ろしい一面を隠し持つ作品でもある。
また、特筆すべきは安男の同棲相手のマリだろう。
「ブスでデブ」を自認するホステスのマリは、不幸な生い立ちにもかかわらず底抜けに明るく、安男に惜しみない愛情を注ぐ。
この上なくリアルなキャラクターでありながら、同時に、男にとっての理想の女に描かれていることは驚きに値する。本書をせつない男女の恋物語たらしめている名脇役に、ぜひ注目してほしい。