運用上における戦車の運動性能(戦車工学)
1・2・4 運用上の運動性能
運用上の運動性能というのは、戦車が長距離にわたって道路上を自力で迅速に移動し得る能力をいうのである。
運用上の運動性能は次の諸項により決まるものである。
1) 常用速度
2) 連続運行に対する戦車の能力
常用速度とは戦車縦隊が対戦車障害物の無い各種の道路上を走行する場合の平均速度である。
戦車の常用速度は伝動装置や懸架装置の構造及び発動機の出力によりきまるものである。もし装輪装軌式戦車《コンバーチブルタンク》ならば、その常用速度は、道路の状況が良好であれば履帯によるよりも、車輪による方が大きいものである。
これに反して、道路状況が悪い時、または断絶した地形においては、常用速度は車輪によるよりも履帯による方が大きい。
戦車が個々独立して不整地を行動する時は、その最大速度は20~30%だけ低下し、また夜間の行動に当たってはなお20~40%だけ低下する。
実際、縦隊で行動する時の常用速度は単独戦車が良好な道路上で出し得る最高速度の約50%であるという事がわかっている。それ故、最大速度が大きくなればなるだけ、個々の戦車ならびに戦車部隊全体の平均速度も大きくなる。現代の装軌式ならびに装輪装軌式高速戦車の良好な道路上での最高速度は30~70km/hである(単独ならば100km/hまで出せるものもある)。重戦車の最高速度は15~45km/hである。こういう状況であるから、戦車の常用速度は平均15~30km/hであり、言い換えれば好条件の下で1昼夜に150~300kmである。
戦車の常用速度は戦車のこれら純技術的性質の外に、地形、季節、昼夜、気象状態にもより、操縦者の技量及びその時の車の技術的な状態によっても異なるものである。
長時間の運行に対する能力は次の要素によって決定される。
a) 戦車の各装置及び細部の堅牢度
b) 手入れの利便及び運行中の操縦の難易
c) 道路に及ぼす走行部の影響の程度、道路面の破壊は次に続く戦車の走行条件を悪化し、時には戦車部隊の輸送に対して良好な道路を利用し得なくする(即ち道路の輸送能力に関係する)からである。従ってこれらの見地から車輪を持つ事、及び無限軌道を可及的に改善する事は極めて望ましい事である。