戦場においての外部観測法(戦車工学) | 軍曹!時間だ!…

戦場においての外部観測法(戦車工学)

1・2・3 乗員の戦闘能力と戦車の確実性

 

 乗員の戦闘力を保証する戦闘車両の技術上の性能は次の様なものである。

 1) 戦場においての外部観測法

 2) 外部との連絡法(部隊及び分隊編成の場合の指揮)

 3) 内部の連絡法

 4) 操縦、運転や射撃の利便及び乗員の作業上の正規衛  

  生条件を備える事

 5) 重要部分の取扱い容易な事

 

外部観測手段: 観測者を確実に防護して、しかも戦場において良好な観測をなし得る事は戦車に課せられた最も重要な要求中の1つである。

現代の観測手段は次の種類に区分される。

a) 直接観測

b) 光学的観測具

c) 光学兼機械的観測具

 

a) 接観測 すなわち種々な構造の覗き孔は構造簡単で、確実な点では優れているが、視野が限定され、鉛の飛沫を充分防ぐことが出来ず、かつ断絶地や不整地を行動する際に、車体の動揺と孔に対する観測者の位置が変わるため、地形の全貌が眼前で絶えず垂直方向に動く欠点がある。戦車の懸架装置を改善すれば、後者の欠点は減少する事が出来るが、これを全然なくしてしまう事はほとんど不可能である。

b)  光学的観測具 として種々の構造のペリスコープが従来も用いられてきたし、また現在も用いられている。どんなペリスコープでも普通の観測用覗き孔と比較して勝れている点は、乗員が確実に射撃に対して防護されている事である。しかし、全てのペリスコープは破損しやすく、したがってこれに対する根本的要求は迅速に取換のできる事と、これに代わるべき観測手段すなわち二重の観測手段を必要とする事である。このほか、ペリスコープを通じて偵察観測する時は明るさが50%まで低下するという欠点もある。

 現代の複雑な構造の光学器材は、その「観測角」(視野)が比較的せまい。観測角は倍率により言って一定している。すなわち、観測角と倍率との積は一定値であり、現代の光学器材にあってはこの値は70に達している。例えば2.5倍の時の「視野」は28°である。なおこのほか、複雑した光学的観測具は一般に高価である事も特記しておかねばならない。

c) 光学兼機械的器具 の中には各種の機構を持つストロボスコープが含まれる。

  普通のストロボスコープは共通の軸を持った2つの鋳鋼製の帽子状の蓋から出来ていて、一方が他のものに嵌められている。外部の帽子は多数の垂直で平行な隙間があり、その隙間の幅は約2mmで、電動機もしくは機械的の伝動装置によって回転される。その回転数は毎分300~100程度である。内側の帽子には多数の覗き孔がありトリプレックスと称する種類の防弾ガラスをもって保護せられている。

ストロボスコープの欠点は明るさの損失が極めて大きい(70~80%に及ぶ)上に、しかも、ただ小銃弾及び弾丸の破片より観測手を防ぐにすぎない事である。ただし、視界が360°に及ぶ点は他の観測器具と比較して著しく優れている点である。

簡単な覗き孔は別として、全ての観測具の欠点は悪い天候状態の下では鮮明度が著しく低下し、また時には全然展望不能の場合もある事である。(降雪、降雨、砂塵等)。

全ての観測器具に対する一般的な要求は次の諸点に帰着する。

a) 最大限の視野、水平視界は出来るなら360°、垂直視界は+70°ないし-15°

b) 車体の動揺にはあまり影響されず、両眼をもって観測し得る事

c) 観測手の確実な防御

d) 明るさの消耗の少ない事(映像の鮮明な事)

e)  敵地帯外で自由に観測し得る事

f) できるだけ倍率の大きい事

 

 


【用語の解説】

 

[トリプレックス] 

Triplex:合わせガラスの商標。3重ガラスともいう。

元はセルロイド今はポリビニール・ブチラールの薄いフィルムを2枚の板ガラスの間に挟んで密着させた安全ガラス。

いわゆる合わせガラスで破砕しても破片が飛散しない。

 

[ストロボスコープ]

八九式中戦車の操縦手用の視察装置も円盤状のストロボスコープだった。

 

文中のストロボスコープを搭載したグロッテ戦車。

二段砲塔最上部のスリットの付いた半球状のものがストロボスコープである。

この戦車は、ドイツラインメタル社の社員であったエドワート・グロッテ(Eduard Grote)がソ連邦に招待され試作したものであり、彼の名を取りTG(TANK GROTTE)と呼ばれる。ちなみにグロッテはヒトラーの命令で1000t超重戦車「ラーテ(Ratte)」を設計していたりする。