軍用車両に対する諸要求の技術的対策(戦車工学) | 軍曹!時間だ!…

軍用車両に対する諸要求の技術的対策(戦車工学)

1・2 軍用車両に対する諸要求の技術的対策

 

 軍用車両―戦車に対するすべての要求は次のごとき項目に分けることが出来る。

 

 1) 戦闘器材の威力

 2) 防御器材の確実性

 3) 乗員の戦闘力と車両自体の確実性

 4)  運用上の運動性能

《訳者注:自走車両としての走行性能》

 5) 戦術上の運動性能

 6) 偽装

 7) 機材の特殊使命より生ずる要求

 

 次にこれら戦闘上必要な要求を検討し、同時にこれらの要求を充当すべき技術的特性すなわち対策を簡単に述べることにする。

1・2・1 戦闘器材の威力(或いは戦車の火力)

 この要求を満たすためには次のような要素について考えなければならない。

 a) 火器を充分効力ある様に正しく選定する事、すなわち戦闘上の与えられた使命に適応して戦車の武装を行う事

 b) すべての方向に火力を最も効果的に発揮できる(すなわち最大火力を発揮する)様

に、戦車自体の火器の配置を最も効果的にする事

 c) 一定の任務を確実に遂行するに足る十分な装備を有し、それを最も有効的に配置する事

 

 戦車の火器は戦車の型式に適応させなければならない。    すなわち与えられた戦車の遂行すべき任務の一般的性質適応するものでなければならない。

 このためには、主として装備火器の口径及びその数量を適当に選定し、その火器の特性を発揮するために種々の弾薬(人馬に対する射撃に対しては普通の弾丸及び榴散弾を、対戦車との戦闘に対しては徹甲弾及び榴弾を、またトーチカの火器との戦闘に対しては小破片となって飛散する弾丸を備える等)を備える事が必要である。軽戦車は多くの場合歩兵と協力して戦闘をするもので、多くの場合下記項目の完遂を期するものである。

 a) 敵の人馬の撃破

 b) 小規模であっても効力ある敵の火力点(機関銃及び対戦車砲)との戦闘

 c) 敵の戦車との戦闘

 d)  対空戦闘

 中戦車は主として相対峙する敵の砲兵、戦車、司令部及びその背後に対して行動せねばならない。つまり中戦車は主として敵の縦深地帯における行動に対し使用せられるのである。

 さらに重戦車は敵の防御地帯を突破するをもってその任務とする。

 戦車の火砲の威力を高める最も合理的方法は火砲の弾道学的特性を改善し、弾丸の初速度、射撃の命中度、射撃速度を向上し、装置を小柄にし、同一重量に対して出来るだけ大きな火砲を備える事である。

 戦車の搭載火砲の弾道学的特性 は特殊のものであり、したがってその構造も戦車特有のものでなければならない。戦車用の火砲は次の様な性質のものでなくてはならない。すなわち平射弾道を持って、装甲板に対しては偉大なる侵徹力を有し、その形態及び重量共に小さく、砲塔内に装備する関係上後座を短縮し、しかも弾丸の初速は出来るだけ高速で、かつ射撃速度が大であることを必要とする。戦車用の火砲の照準距離は野戦用《野砲用?》のものに比べて多少短くてもよい。すなわち

 a) 口径       b) 初速度

 c) 砲口のエネルギー(砲弾の運動量)

 d)  横断面荷重    e) 射撃速度と射撃の命中度

 口径を増大する事は大砲の威力(侵徹能力)を増大するという考えからいって望ましい事である。侵徹能力は口径の自乗に略比例《概ね比例》して増加するが、同時に口径を増大すると弾丸ならびに装置全体の重量が増大する事になる。戦車用火砲の初速度は野砲の初速度よりも速い。火砲の砲腔エネルギーは初速度の自乗に比例するものであるから、初速度の増大は望ましい事である。移動する目標を射撃するに当たっては初速度の大きなことが特に重要である。初速度が大であれば弾丸の飛翔時間が短縮され、射撃の命中度を増すからである。現代の戦車用火砲は次に示す様な初速度を持っている。すなわち

 20mm・・・・・・800~1000m/s

 37mm・・・・・・600~800m/s

 75mm・・・・・・750~800m/s

口径の増加と同時に初速を増す事は、構造上かなり困難となる。

侵徹能力は砲口におけるエネルギーに比例するものである。弾丸の発射の瞬間における運動量が大きければ大きい程、障害物に命中した瞬間における運動量も大きい。それゆえに戦車用火砲の砲口におけるエネルギーは、出来るだけ大きくなければならない。現代の戦車用火砲ではそのエネルギーはE=0.5mv²という式で計算すると次の範囲内にある。

 37mm口径・・・・・・・・12~23t-m

 45~57mm口径・・・・18~30t-m

 75mm口径・・・・・・・・65~115t-m

戦車用火砲の合理的な標準は、砲口におけるエネルギーの火砲の重量に対する比と、当火砲が据付けられる砲塔そのものの重量に対する比である。現代における各種口径の火砲におけるこれらの比の値は次のとおりである。すなわち砲口におけるエネルギーの火砲質量に対する比は200~300kg・m/kg   の範囲内にあり、また砲口におけるエネルギーの砲塔そのものの重量に対する比は25~40 kg・m/kgの範囲内にある。

横断面荷重すなわち砲弾重量の横断面に対する比は、戦車用火砲にとっても出来るだけ大きくなければならない。これは飛行中における弾丸の速度の低下は横断面荷重に逆比例するもので、この事は次式で明らかである。

 現在の戦車用火砲の射撃速度は野砲より著しく大きい。すなわち20mm口径の全自動式火砲にあっては1分間100~120発を発射し、口径37mmの半自動式火砲は1分間に概ね20発を、また戦車用標準火砲である45~70mm砲は1分間に10~12発(20発まで)を発射する事が出来る。

 射撃速度を過度に高める事は弾薬を無駄に消費する事になる。

装備火器の機関銃にあっても、その射撃速度を著しく増大し、平均1分間に500~1000発を発射する事が必要で、これにより標的を捕らえた瞬間を出来るだけ有効に利用する様に間断なく射撃をしなければならない。